世界の中心地の家賃下落が止まらない。都市部を離れて近隣地区に移住する動き
今回の新型コロナウイルスは世界中にさまざまな影響を及ぼしました。その一つが家賃。大型都市の一部で家賃の下落が急速にすすんでいるのです。住居は生活を支える大きな存在なので、新型コロナの影響が出るのは当然かと思いますが、日本では考えられないほどの下落率。もちろん、日本でも局所的には大きな変更を余儀なくされたところもあると思いますが、このスピード感はちょっと想像が追いつきません。その一方で、住居の販売価格が上がっているところもでています。
ここでは、世界の大都市で起こっている不動産に関する変化を紹介します。
超大都市ではアパート賃料が下落
新型コロナウイルスが猛威を振るいだし、各ジャンルの統計的データが発表されるようになりました。そんなデータの中に、賃貸アパートの賃料に関するものがあります。そもそも日本と諸外国では、住居に対する考え方が違うので、同じ感覚で捉えるのには少し無理がありますが、それにしても大きく変化しているので注目するべきでしょう。
ここで紹介するアメリカやカナダ、イングランド(ロンドン)で賃貸アパートに住んでいる人は、海外からの留学生であったり、特派員であったり、地方から仕事で来ている人など、若い世代で身軽な人が中心だと考えられます。
彼らにとって高い家賃が大きな負担であることは万国共通。それでも都心部に住むのは勤務地に近いとか、目新しいお店が立ち並ぶとか、娯楽施設が充実しているなど、いろいろな理由があるわけです。
ところが、都市がロックダウンしたことによりショップに行くことができなくなり、また仕事も在宅勤務が増えました。こうなると、「高い家賃を払って都心に住む必要はないのでは?」と感じる人が多くなり、都市部を脱出する人が増加し、家賃が下落したと考えられています。
いくつか例を挙げてみます。
たとえばアメリカ最大の都市圏人口を持つニューヨークシティの中心街、マンハッタン。ウォール街、5番街、タイムズスクエアにブロードウェイなど、有名なところを挙げたらキリがない、世界有数の都市です。この地区の賃貸アパートの家賃が急激に下がり、2020年9月の家賃は2013年以来、最も低くなってしまったようです。
オフィスには未だ人が戻ってきたとは言えず、ブロードウェーのミュージカルは来年5月まで休演。娯楽がなくなり、街としての魅力が半減したのですから、当然と言えば当然ですね。
イギリスの首都、ロンドンでも、家賃は下がっています。イギリス不動産総合コンサルタント会社、ナイトフランクが発表したデータによれば、市内の最も裕福なエリアでは、1年間の家賃下落率が8.1%。近年まれに見る落ち込みだそうです。
ロンドンは、今回のコロナ以外にも、 EU離脱で駐在員が減少したことも理由の一つになってそうですが・・・。
カナダの首都トロントでは、都市部賃料(7-9月期)は前年の同じ時期に比べると15%近く下がっっているそうです。その一方で、トロント全体見てみると、戸建て住宅の価格は上がり、前年比13%の上昇。この機会に都市から少し離れた環境のよい所に引っ越そうと言う人が増えているのかもしれませんね。
米サンフランシスコで家賃下落が顕著に
カリフォルニア州サンフランシスコを例に、家賃下落をもう少し詳しく見ていきましょう。
サンフランシスコはハイテク企業が多く、リモートワークがますます進んでいるところです。この勤務体系は一時的ではなく、多くの企業では恒久的になると見られています。
そんなサンフランシスコは住宅費が高騰し、問題となっていた地域。賃貸物件サイトのザンパーによれば、1ベッドルーム賃料中央値が、2019年6月に最高値の3,700ドルを記録しています。1ドル105円と考えると、毎月388,500円の賃料を払うわけですから、めちゃくちゃ高かったことがわかりますよね。
不動産情報サイトのリアルタードットコムの発表によれば、サンフランシスコの2019年9月の家賃中央値3,540ドルは、今年2020年には(3,040ドル)となり、前年同月比マイナス14%。ザンパーによれば、サンフランシスコの1ベッドルーム賃料中央値は、2020年4月まで3,500ドル前後を維持していたのですが、9月に2,836ドルに下落しています。恐ろしい下落です。
3,000ドルを切ったのは2014年にデータを出しはじめてから初のこと。10月はさらに下がり2,795ドル。これは前年同月比21%減と言いますから、大家さんは悲鳴をあげていることでしょう。
さらに恐ろしいことに、これは一過性の下落ではなく、今後も下がり続けるという予想が立てられているので、この先、何かが起こる予感・・・。
地方都市は賃料が上がっているところも
こうなってくると、高い賃料を払って都心部に住んでいた人がどこに行ったのか?という点が気になります。これもデータで見てみると、上がっているところがあるわけですね。
例えばミシガン州のデトロイト。ここではワンベッドルームの家賃中央値が、5.7%アップして740ドルになっています。他にも、中央値が5%以上、上がっている地域としては、チャタヌーガ(テネシー州)、シンシナティ(オハイオ州)、ノーフォーク(バージニア州)、ラレード(テキサス州)、リンカーン(ネブラスカ州)などがあります。
あまりにも家賃が高額になりすぎた大都市を脱出し、手ごろな家賃で暮らせる地方都市に引っ越しているという状況があることが分かります。もちろん、サンフランシスコで3,000ドル払っていた人が、急にデトロイトに引っ越して賃料740ドルになったというわけではないでしょう。多くの人が住宅をワンランクあるいは2ランク下げることで、最終的に地方で環境がよい地域の賃料が上がったということかもしれません。
前述のトロントでも都市部の賃料が下がり、近郊都市の住宅の価格が上がるという現象が起こっていましたが、理屈は同じかもしれませんね。
日本とアメリカの感覚の違い
日本でも都心から地方へという流れは強まっているとは言われています。しかし、23区内の家賃が急激に10%以上も下落するというのは考えられません。それは単にコロナの影響が小さいというだけではなく、住宅に関する感覚の違いが大きく関わっています。
アメリカ人は一生に7回あるいは9回引っ越すと言われており、引っ越しするということに 抵抗はありません。さらに言えば、転職についても日本人とは全く違う感覚を持っているので、雑な言い方をすれば、職を変えてそれによって引っ越すということが日本人よりもっともっと身近だということになります。
また日本では賃貸の契約期間が2年ですが、アメリカでは契約期間は入居時に決まるという仕組みを持っていることで、変動がスピーディに起こります。
しかし、長い目で見れば日本にも似たような現象が起こる可能性はあります。アメリカで起こったことは数年後に日本でも起こると言われており、実際に住宅に関する感覚も少しずつ変化を見せてきています。
これからどういう流れがあるのかは興味深いところ。 日本の不動産投資市場にどのような影響があるのか、またはないのか。注視していきたいと思います。