不動産の減価償却の基本を知る。ややこしい計算をわかりやすく解説

将来的に不動産の売却を考えている。そんなときに必要になるキーワードは「不動産の減価償却」です。今回は不動産の減価償却に関する基礎知識、計算方法を紹介します。

 

不動産の減価償却とは

事業や業務に用いられる建物、建物に付属した設備、機械装置などといった資産は、時間の経過とともに劣化していき、その資産価値は減っていきます。このような資産を減価償却資産といいます。そして、減価償却資産を取得したときに、取得費用として購入時の金額を分割し、一定年数をかけて、「経費」として帳簿上に計上することが出来ます。

例えば、アパートを賃貸で貸し出したり、所有していたアパートやマンションを売却したりした場合、不動産収入が発生します。その収入には税金が課せられますが、「収入-経費」が課税対象。そして減価償却費を経費に加えることで、課税対象の額が少なくなる=節税に繋がるというわけです。

1,000万円で購入した不動産物件を、10分割して、毎年100万円ずつ減価償却費として計上すると考えるとわかりやすいでしょう。

 

不動産の減価償却の計算方法

不動産の減価償却費の計算の仕方には、決まった計算式があります。計算式に必要な各項目について、1つずつ解説します。

減価償却費の計算式
「減価償却費の額=取得価格×耐用年数に応じた償却率」

取得価格

取得価格とは文字通り「取得したときの価格」」ですが、減価償却費を計算するとき、不動産は土地と建物を分けて考えます。減価償却の対象となるのは建物だけです。土地は時と共に経年劣化しないため、減価償却の対象外です。

建物の価格は、売買契約書に記載がある場合はそのまま建物の価格を使って減価償却額を計算しますが、表記されていない場合は「固定資産税評価額」を用います。

建物の取得価格=売買価格×(建物の固定資産税評価額÷不動産の固定資産税評価額)

例)
売買価格:4,000万円
不動産の固定資産税評価額:3,000万円
(内訳:建物:2,000万円、土地:1,000万円)

2,667万円=4,000万円×(2,000万円÷3,000万円)
※小数点以下、繰り上げ処理

建物の設備に関しては、建物付属設備といって、取得価格を別途計算しなければいけません。電気、ガス、水道設備などもこの建物付属設備にあたります。建物付属設備の取得価格は、契約書に記載されている場合は、表記された金額をそのまま計上。記載されていない場合、工事費の割合を元にして計算します。

例)
工事費の割合 建物75%:建物設備25%

上記の売買価格4,000万円の例に当てはめると、以下のようになります。

建物本体の取得価格2,001万円=建物の金額2,667万円×建物の工事費割合75%
建物設備の取得価格 667万円=建物の金額2,667万円×建物設備の工事費割合25%

 

耐用年数の確認と計算方法

不動産の耐用年数は国税庁が示している「耐用年数(建物・建物付属設備)」で確認します。木造、鉄筋など建築構造によって、それぞれ耐用年数は異なります。

主な法定耐用年数

建築構造 法定耐用年数
木造 22年
鉄骨鉄筋コンクリート 47年
れんが造 38年

耐用年数を算出する式は2種類あります。購入時の築年数が国税庁の示す法定耐用年数を超えている場合と、超えていない場合です。

購入時の築年数が耐用年数を超えている場合。

「耐用年数=法定耐用年数×0.2」

例えば木造、築30年の場合。
木造の場合は法定耐用年数が22年、築30年の場合は法定耐用年数の22年を超えているので、以下の式で計算します。

耐用年数4年=22年×0.2

購入時の築年数が耐用年数を超えていない場合は、以下の計算式になります。

耐用年数=(法定耐用年数-築年数)+(築年数×0.2)

例えば木造建築で、築5年の場合
耐用年数18年=(法定耐用年数22年-築年数5年)+(築年数5年×0.2)

新築の場合

新築は築年数をゼロとして、築年数が耐用年数を超えていない数式に当てはめて計算します。1度計算するとおわかりになりますが、数式の構造上、法定耐用年数が耐用年数とイコールになります。

耐用年数22年=(法定耐用年数22年-築年数0年)+(築年数0年×0.2)

参考:国税庁 耐用年数(建物・建物付属設備)
https://www.keisan.nta.go.jp/survey/publish/34255/faq/34311/faq_34354.php

 

耐用年数に応じた償却率の確認

不動産の耐用年数を確認したら、今度は国税庁が提示している「減価償却資産の償却率表」を元に、耐用年数に合う償却率を調べます。

ただし、ここで1つ注意点があります。不動産の取得日が平成19年4月1日以降と、平成19年月31日以前とで確認する償却率表が違いますので、気を付けて下さい。

また、ご覧いただくとおわかりになりますが、償却率には「定額法」と「定率法」の2つあります。

  • 定額法:毎年の減価償却費が一定。
  • 定率法:年々減価償却費が下がる。

建物本体には定額法を使用します。建物付属設備は定額法、定率法、どちらも適用することが出来ます。ですが、定率法を用いる際は別途申請が必要となり、定額法にて算出するのが一般的です。今回の計算も定額法を採用します。

 

減価償却を計算してみよう

例にもとづいて、減価償却を実際に計算してみましょう。

取得日:平成21年3月3日
建築構造:木造
不動産の売買価格:6,000万円
固定資産税評価額:5,000万円
建物の固定資産税評価額:3,000万円
土地の固定資産税評価額:2,000万円
工事費の割合:建物70%、建物設備30%
築年数:15年

取得価格の計算

取得価格3,600万円=6,000万円×(3,000万円÷5,000万円)
建物本体の取得費2,520万円=建物の取得価格3,600万円×建物の工事費割合70%
建物設備の取得費1,080万円=建物の取得価格3,600万円×建物設備の工事費割合30%

耐用年数の計算

木造建築が法定耐用年数22年、築年数15年。
(22-15)+15×0.2=10年

建設設備が法定耐用年数15年で、築年数が15年で経過しているので、
15×0.2=3年

取得日が平成20年と平成19年4月1日以降に取得しているので、
建物本体の償却率:0.100
2,520万円×0.100=2,520,000

建物設備の償却率:0.334
1,080万円×0.334=3,607,200

総額は2,520,000円+3,607,200円=6,127,200円が減価償却費となります。

ただし、ここで算出したのは1年で償却する償却費です。例えば、購入が9月でしたら、当該月の9月から数えて、12月まで(9月、10月、11月、12月)の4か月分でその年は計算します。以下の計算にて、4か月分は1,859,673円です。そして、来年1月からの1年分が上記計算で算出した6,127,200円です。

減価償却費総額 6,127,200円÷12ヵ月×4か月分=2,042,400円

参考:国税庁 減価償却資産の償却率表
https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/shotoku/shinkoku/070412/pdf/3.pdf

 

不動産の減価償却のポイント

減価償却は「収入-経費」に課税されるので、経費の額面が大きくなると節税につながると冒頭で説明しました。ですので、減価償却費を計上するうえで、減価償却費の額面を大きく計上することが出来れば、自然と収入から差し引く経費は大きくなり、結果、課税対象額が少なくなります

建物の価格を大きくする

経費を大きく計上するために考えられることは、不動産を購入するにあたって、土地価格より建物価格の割合が大きい不動産を選べば、減価償却費は大きくなり、「収入-経費」の経費の部分が増えるので、差し引かれた課税対象額は小さくなり、結果、節税に繋がります

ですから、不動産購入時に、土地と建物の価格バランスを売主と相談するのも1つのアイデアです。建物に価格比重を置いた不動産(建物>土地)として売ってもらえば、たくさん減価償却することが出来、節税出来ます。

ただし、後々の売却を視野に入れている場合は、当然ですが時間の経過とともに建物はどんどん償却が進み価値はゼロに近くなり、土地価格のみに売値が近くなります。ですので、売却時は建物に価格の比重を置くとそれだけ安く売ることになるので、土地と建物の価格バランスは慎重に決めましょう。

海外では事情が違う。減価償却を活用した節税

海外では土地と建物の価値の割合が大きく違い、これを利用して節税効果を得るということが流行っています。日本では「土地:建物=8:2」と言われるように、土地の価値が高く評価されます。ところが海外では、建物価値の評価が高く、木造建築でもリフォームを繰り返し100年近く住む例も珍しくありません。

それでも、海外不動産を持っている人が日本の居住者の場合、税制として適用されるのは日本の国内法。日本の法律上の減価償却を活用することで、実際の耐用年数とは大きな開きが出て、大きな節税効果を出すことになります。また、不動産所得は給与所得などと「損益通算」することも可能で、ますます節税メリットがでてきます。これについては、非常に面白いので、別の記事で紹介したいと思います。

 

まとめ

減価償却の計算を1つの知識として蓄えておくと、上手な節税を行うことが出来ます。専門家に任せる場合でも、自分の資産の何を計算し、計上しているのかはきちんと把握して、明るい未来を築きましょう。

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