武蔵小杉への台風19号被害から考える、タワーマンションの脆弱性と資産価値への影響
- 2019/10/30
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みなさんは、タワーマンションにどのような印象を持ちでしょうか?
どんな印象を持っている人でも、先日の台風19号によって受けた惨事をイメージしていた方は少なかったかもしれません。
しかし、よく考えてみれば、タワーマンションは川沿いやベイエリアに立っているものが多く、水害から遠い存在とは言えないのでは・・・。
ということで、今回はタワーマンションの資産価値と水害について、株式会社ケーアイティーシーの代表取締役で、自身も不動産鑑定士として活躍する石丸和宏さんにお話を伺いました。
武蔵小杉をおそった台風被害状況を簡単に整理してみる
まずは、台風19号の被害をおさらいしたいと思います。
この記事のテーマとなる武蔵小杉駅周辺はタワーマンションが林立することで有名です。住みたい街ランキング上位の常連で、ちょっとしたセレブが住む街というイメージが定着しています。そんな中で起きたのが、今回の自然災害。47階建てタワーマンションが水浸しになる姿は多くの人に衝撃を与えました。もちろん、今回の浸水被害が発生したのはこのマンションだけでなく、地域一帯なわけですが、今回のタワーマンション独自の問題も発生することとなりました。
その主なものは、浸水による被害です。電気系統の設備が地下にあり、浸水したことで停電を引き起こしました。当然、水は電気によって汲み上げるわけですから、断水が発生し、トイレも使用できないことになります。今回は簡易トイレも配られたようで、まさかタワーマンションで簡易トイレを使うことがあるとは予想もできなかったことでしょう。
また、エレベーターが動かないのも致命的。結局、浸水被害自体はそれほど長引かなかったものの、実生活には長期的な影響が出ることとなり、ホテルなどに仮住まいをする人が続出したのです。
ハザードマップでは浸水被害が懸念されていたが・・・
ちなみに、この地域は市が策定したハザードマップで、多摩川水系の洪水に弱いことが分かっていました。
そのため土地のかさ上げなどが行われていたと言います。そして今回の台風でも、この多摩川からの水害は免れることができました。
では、あの水は何だったのか・・・。
あのエリアをおそったのは、本来は多摩川に流れるべき汚水。行き場を失った汚水が溢れかえったというわけで、近隣住民が、「辺り一帯がうんこくさい」と言ったのは当然だったのです。
武蔵小杉のタワマンの資産価値に影響するか?
気になるのは、今回のことで、47階建てタワーマンションの資産価値に影響があるのかという点です。これはマンション所有者も気になるでしょうが、タワーマンションの抱えるもろさを露呈したかたちとなったわけですから、多くの人が注目しているのではないでしょうか。
そこで、不動産鑑定士の石丸和宏さんに、水害とタワーマンションの資産価値について伺いました。まずは、武蔵小杉のマンションについてです。
「個人的な見解となりますが、価値は下がると思います。水害が起こったことよりも、避難経路など非常時の対策が整ってなかったことが露呈したのが理由です。マンションのエレベーターが止まり、上層階の人が階段で登って行かなければならないなど、水害以外の被害が大きくなりました。
これが、非常災害時でも動くエレベーターがあるとか、1階部分は水没しても、2階から最上階まで動くものが設置されているというのであれば影響はなかったと思いますが、全てが止まってしまったわけですから、価値は下がると思います」(石丸さん)
多くのタワーマンションがそうであるように、電気施設は地下に設置してあります。地上階に作れば、それだけ部屋数が少なくなるわけですから、これはある意味当然なのですが、地下故に水害に弱い。そのため、マンション自体が受けた浸水被害は最小におさまり、水自体は比較的短時間にひくものの、電気系統を修理する時間が必要で、実質的な被害を受けた時間は長くなったと言うわけです。
「今回のメディア報道を見ていても、『武蔵小杉、イコール、ちょっと危ない場所』という心理的なマイナス面が根付いてしまいました。これは東日本大震災のときに浦安が液状化し、印象が悪くなったのに似ているのかもしれません。さらに、武蔵小杉は駅設備などが地域の発展に追いついておらず、不便さを感じていた人も多かった場所です。その上に今回の台風被害ですから、追い打ちをかけることになってしまったかもしれません」(石丸さん)
武蔵小杉駅と言えば、 JRが新南改札の近くに臨時改札を作ったほどの混雑ぶりを見せる駅として有名です。毎日の通勤にうんざりしていた人の中には、今回のことで引っ越しを考える人もいて当然と言えるのかもしれません。
他のタワーマンションへの影響を考える
もう一つ気になるのは、今回のことでタワーマンション全体の人気が下がるのではないか?という点です。もちろんタワーマンションと一口に言っても条件はさまざまですが、何らかの影響があるものかは知っておいた方がよいでしょう。
「もちろん全てのタワーマンションが影響を受けるわけではありません。今回のことで言えば、ハザードマップで水害の危険性が低いところであれば、問題はないでしょう。
ただ、東京湾にタワーマンションが乱立するエリアがありますが、あの辺りは影響があるかもしれません。ベイエリアは元々、オリンピックが終わると下落すると言われている地域です。東京湾を埋め立てた地域ですし、水害の可能性も高そうだとすると、心理的な嫌悪感が生まれる可能性がありますね」(石丸さん)
確かに、埋立地に地震が起こることで発生する液状化に加え、今後、水害が起こる可能性が考えられるとあっては、何らかの影響があるというのは納得できる話です。タワーマンションに住むにしても内陸の高台にとか、もしかすると、一戸建てにと考えを改める人がいるかもしれません。
「ただし、不人気な状態は一過性に終わる可能性もあります。例えば、東日本大震災のときは、『高層階はよく揺れる』いうことで値段が下がりました。上層階の人気が下がり、中層階の人気が出たのです。ところが数年経つと、新しいタワーマンションもでき、今は再び、上層階の人気が出ています。喉元過ぎれば・・・と言うことなのかもしれませんね。こういったことは、心理的なものによるところが大きいので、一時的に下がったからといって落胆する必要はないのかもしれません」(石丸さん)
なるほど。ということは、こういったトラブルのあった直後は上層階の人気が一時的に落ち、価格が下落する可能性があるということ。ということは、時期を狙えば、お得に購入できるということかもしれないと、庶民感覚丸出しの感想を持ったのは私だけではないはずです。
何はともあれ、今回の武蔵小杉のような被害に遭わないためには、事前にハザードマップをしっかりチェックするほか、マンションが持つ災害に対するポテンシャルを十分に把握しておくことが重要なようです。
また、資産価格は心理的要因も大きく影響するという知識を持っておくことも重要なのかも知れません。これを逆説的に活用することで、手頃な価格で購入できるチャンスにつながるかもしれないからです。
おまけ
セレブな印象のあるタワーマンション。その脆弱性を垣間見た今回の自然災害となりました。
ちなみに、私にとって一番印象的だったのは、「ホテルの宿泊費を保証してくれ!」とテレビのインタビューで言い放った女性でした。タワーマンションに住む人って、意外に庶民的(笑
今回お話をうかがった方
石丸和宏さん
株式会社ケーアイティーシー代表取締役 不動産鑑定士 宅地建物取引士
不動産について、鑑定評価から売買まで幅広く対応してくれる専門家である。
TAC不動産鑑定講座講師、東京都庁研修会担当講師等を担当。
難しい専門用語を極力使わない分かりやすい説明で顧客及び受講生から好評を得ています。
株式会社ケーアイティーシー公式サイト http://www.k-i-t-c.co.jp/index.html