不動産投資のスタートアップ講座 ~買うべき物件を見極める!現地調査編〈前編〉
不動産投資を始めてみたいけれど何から始めていいの?となかなか手が出ないというケースも多いのではないでしょうか。
そんなこれから不動産投資を始める初心者の方に向けて「スタートアップ講座」をお送りしていきます。
今回は現地でおこなう物件調査と、ヒアリングについて。
前後半でお送りします。
不動産投資を取り巻く環境はかわった
現地調査で売物件を実際見にいくと、それだけで「やった感」があります。
たとえば1億円の物件を見て帰ってくると、現状は何一つ変わっていないのに、何か大きなことを成し遂げたかのような気持ちになるのです。
こうした実態のない達成感や満足感は注意しなければいけません。
現地調査で得られる情報量というのは以前と比べてウエイトが低くなっています。ひと昔前ならばGoogleストリートビューはおろか、インターネットで得られる情報そのものが少なかったので、現地に行かないと分からないことたくさんありました。
不動産投資業界でよくいわれている「買う物件を決める前に、最低100件見る」という格言や、アメリカの不動産投資家ドルフ・デ・ルース氏が提唱している「100:10:3:1の法則」などは有名ですよね。100件の物件を現地調査して、そのうち10件に買付けを出し、3件の買付けが通り、最終的に1軒買えるというものです。
しかし、今は100件見て10件しか買付けを入れられないようでは、事前のリサーチ精度が悪すぎますし、まずは現地へ行くという考え方が時代遅れなのかもしれません。
あらかじめ投資指標や需給調査や人口動態などをネットで調べ、買うか買わないかの判断基準を明確にしてから、現地を見て問題がなければ購入するという流れが望ましいでしょう。
とはいえ、現地調査は物件購入において欠かせないものであり、現地に行かないと分からないこともたくさんあります。
物件を見に行くタイミングは、ネットや紙資料でリサーチした後、基本的には買付前に現地へ行くケースが多いでしょう。
ただし、スピード感が求められる人気物件や指値が通ったら買えるような物件は、買付を提出した後で現地へ行くこともあります。
その時は売主側に「現地を見て問題がなければ買う」と知らせた上で、買付を入れるのが最低限のマナーです。また、現地を見に行った後、行かずして分かることを理由に購入を断るようなことがないようにしましょう。
ネットでさんざん調べて指値交渉までしたのに、現地を見てから「やっぱり山梨県はイヤだ」とか「駅から遠い」など…最初から分かりきっている条件を理由にして断るのはとてもダサいです。
◎ステップ1 現地調査で確認しておくこと
まず現地調査で大事なのは、現地へ行かないと分からないものを確認することです。
現地調査のポイントは、大きく分けて4つになります。
- 1つめは、建物の劣化状況
- 2つめは、管理体制と入居者のマナー
- 3つめは、物件の雰囲気
- 4つめは、周辺の環境と需給状況
1)建物の劣化状況
建物の劣化状況はGoogleストリートビューや、賃貸募集サイトの物件写真からおぼろげながら判別できますが、やはり現地に行かなければ分からないチェックポイントです。
外回りでチェックすべきポイントは幾つかあるのですが、中古の売物件で築年数分の修繕がきちんとされている建物というのはまずありません。ババ抜きのような話ですが、中古物件の大半は「もうすぐ大規模修繕をしないとマズイ」という状態で売りに出されています。建物がきれいで築浅物件でもない限り、クラックやサビや汚れというのは当然あるものです。
中古物件は建物が劣化していることを前提として、現地では修繕する箇所・時期・費用などを具体的に見積もっていきます。
ただし、今すぐ外壁や屋上を修繕しないと雨漏りの危険がある、もしくはその予兆があるという物件は、購入直後に大きな修繕費用がかかるので気をつけましょう。物件から得られるキャッシュフローで、その大きな修繕費を回収できるのは何年後か?ということを念頭に置いて購入判断をしてください。
Check Point◎外回りの劣化を確認する
外回りで確認することは外壁・屋上の防水、鉄部のサビ、木部の腐食、タイルの剥がれです。
外壁・屋上の防水
とくに建物というのは防水が大事で、もし雨漏りが発生した場合は建物にダメージを与えますし、入居者にも迷惑がかかり居住できなくなる可能性もあります。
建築現場でずっと見ていると分かるのですが、今の家づくりはまるでプラモデルのように組み立てられているため、元々建物の隙間が多いです。そこに水が入らないように塗装やコーキング、シートを貼るなどの防水対策が施されています。
これらの防水対策は、壁や屋根などの建材そのものに比べて耐久性が低いので、壁にはクラックもなくキレイな状態であっても、防水性能は衰えているということも起こり得ます。
防水劣化を確認する方法としては、まず外壁を触って塗料の粉末が白く手に付く「チョーキング現象(※)」の有無です。不思議なことにどんな色の外壁でも、手に付く塗料の粉は白色です。チョーキングがあるとかなり劣化している証拠で、2~3年以内に何らかの塗装や防水処理をしないと、建物自体に大きなダメージを負うことになるでしょう。
外壁工事は内容によって価格が違うので一概にいえませんが、ネットで調べれば1㎡あたりのおおよその施工単価が分かります。
そこで注意しなければいけないのは、外壁工事で必要になる足場です。縦長のビルだったりすると塗装代よりも足場代の方がかかるようなこともあるので、塗装単価だけで調べないように気をつけてください。
※チョーキング現象…外気や紫外線などの影響で外壁材の表面塗装が劣化し、顔料がチョークの粉のように浮き出てくる現象です。
屋上防水の劣化は外壁よりも分かりやすく、ひと目見て修繕が必要かどうか判断できます。たとえばシート防水など接合部の剥がれ、目地の浮きや表層のひび割れ、雨水の溜まりなどがあります。
物件によっては屋上自体に登るのが困難で、傾斜のある屋根だと上の方は見えないケースもありますが、万難を排して確認しましょう。可能であれば売主さんに防水工事の履歴や当時の見積書を出してもらえれば、防水があと何年持つかの検討がつきます(工事が手抜きじゃない場合の話ですが・・)。
アパートの防水工事で1番多いのがウレタン防水で、約10年の寿命だと言われています。施工単価の相場は1㎡あたり3,500〜4,000円なので、修繕費用と時期が分かれば安心して買える判断ができるのではないでしょうか?
ちなみに防水が劣化している時は、ウレタン防水の上からトップコート塗装をして、表面の防水層を再コーティングするという安価な方法もあります。畳でいうところの表替えみたいなものです。詳しい工法は専門書やネットなどで研究してみてください。
鉄部のサビ
鉄部のサビは主に外階段などに出やすいです。
接合部分が錆びて外段が外れかかっているのでなければ、防水に比べて症状はかなり軽く、軽微なサビを気にする必要はまったくありません。鉄部塗装をすれば見違えるほどきれいになるので、物件価値を上げやすいポイントの1つです。
共用電灯の鉄部にもサビが入りやすいですが、建物の劣化とは関係ないですし、塗装で簡単に蘇ります。
こうした細かい劣化を気にするあまり、物件を買えなくなってしまうことの方が大問題です。
ただし、現地調査で見つかる劣化現象の中には、修繕に相当な費用が掛かるものもあります。
その1つが「爆裂」です。
爆裂というのは主に鉄筋コンクリートの建物に起こる現象で、外壁のクラック(ひび)から雨水が侵入して、鉄筋が錆びて膨張しながらコンクリートを破壊する現象です。
これは壁面や屋上の防水性能劣化を長期間放置していた証拠で、今すぐ建物が崩れることはないですが、一部の外壁が落下して重大事故につながる可能性があります。劣化した躯体部分を直すのは非常に難しく、壁面の補修にもかなりの費用が掛かります。
また、築古物件を買うときに厄介なのが「配管」です。
現在使われている配管は塩ビ管という塩化ビニル製ですが、昔の配管は鉄製の亜鉛めっき鋼管でサビが発生してしまいます。配管の寿命は30年といわれていますが、鉄筋コンクリートの建物は耐用年数47年で、当時の耐用年数は60年でした。なぜこんなアンバランスな設計をしたのか不思議でしょうがないですけど…。
建物自体は元気でも配管がボロボロになっている、という物件は結構あるものです。
配管のサビは、水道を出して赤水が出るかどうかで判断できます。
豆知識として鉄に付くサビは赤錆と黒錆の2種類あり、人体に有害なのが赤錆です。日本の水道水は薄い塩素が含まれているため、配管から出るサビはほぼ有害な赤錆になります。
壁に埋まったサビだらけの配管は、修繕困難で莫大な費用がかかります。
そこで露出配管といって、建物の外側に新しい配管を通して新たに作り直すやり方があります。外壁に沿って配管がむき出しになるため、場所や雰囲気によっては工場やラボ的なカッコイイ感じになることもありますが、やはり大抵は見栄えが悪くなってしまいます。
ほかにも配管を高圧洗浄する方法があります。高圧ジェットや超音波洗浄などで配管に水を流して赤錆をこそげ落とすのですが、その高圧洗浄に劣化した配管が耐えられず、破損を誘発してしまうリスクがあります。
また、水道メーター部分に電気や磁力で水のイオン編成を変える機械を付けて、赤錆を黒錆にしていくというアクロバチックな方法もありますが、これは時間と数百万単位のコストがかかるため、小規模な賃貸住宅には向きません。
このように古い鉄管というのは、直すことも改善することも難しいので特に注意しましょう。
Check Point◎室内の劣化を確認する
室内の劣化状況は現地へ行かなくとも、賃貸募集サイトに載っている写真を見ればだいたい分かります。とはいっても、空室があれば当然見せてもらった方がいいでしょう。
その場合は部屋の状態を見て購入判断をするのではなく、どこをどういう風に改善すれば価値を上げることができるのかを主軸に見ていくのがポイントです。
今の設備、内装、管理体制の結果として、今の家賃と入居率がある訳です。
逆にいえば、設備や内装、管理体制が向上すれば、家賃や入居率も上げていけるということですね。
いまは中古物件の利回りが下がっているので、相場を維持できていないとか、残債が思うように減っていないということで売りにくいなんて話も聞きます。
しかし、自分で物件の価値を上げることができれば、相場に関係なく高値で売却することが可能です。内装や設備はその中でも1番のポイントなので、どうすれば物件価値を上げることができるかという観点で判断していきましょう。
ちなみに弊誌のけいすけ編集長は入居率が低迷していて管理体制が悪く、価値を上げやすい物件を好んで買うことが多いです。そういった荒れた物件の部屋を見に行くと、最低でも40〜50箇所の「アラ」を見つけることができるそうです。こんなにダメな所があるから買わないと思うのではなく、逆に価値を上げやすいプラス材料として見る必要があります。いかに低コストで価値を上げるか考えて欲しいです。
どのようにリフォームしたらいいのか?
リフォームは現状回復 → 表層リフォーム → フルリフォーム → リノベーションの4段階に分かれており、各レベルによって内容や費用が変わってきます。
「現状回復」は元に戻すだけなので、ハウスクリーニングや簡単な修繕を含めて1坪あたり2~3万円程度で済みます。
賃貸物件の場合は「表層リフォーム」が1番多いです。たとえば床をクッションフロアにする、和室を洋室にする、クロスを全面張替える、玄関土間をテラコッタ調のクッションフロアにする、照明・エアコン・洗面台を入れ替えて1坪あたり5万円程度になります。
「フルリフォーム」は建物の築年数によって変わりますが、お風呂を取り替えて1坪あたり10万円程度が相場です。
基本的には新築の賃貸物件や分譲マンションのモデルルームなどをお手本にして、なるべくそこに近づけるようなリフォーム案を考えるようにするといいですね。
リニューアル投資を実践している大家さんは、だいたい表層リフォームレベルで修繕していることが多いです。10坪ぐらいの広めのワンルームで、50万円分のリフォームをするとまるで見違えるような部屋に変身します。
とはいっても上を見ればキリがないので、たとえば3万円のリフォーム費用で家賃を月1,000円上げられるような、効率の良いリフォームを選んで実施しましょう。
大事なことは限られたリフォーム予算の中で、どれだけ物件価値を上げることができるか?です。
費用対効果に応じたリフォームパターンを自分の中で把握できれば、物件も買いやすいですし、購入後の計画もより立てやすくなります。
[意外と知らないミニ知識]
入居者に不人気といわれている「3点ユニットバス」を、バス・トイレのセパレートに変える商品や業者さんがいくつかあります。
このリフォームは一時的に流行りましたが、正直いってあまりオススメできません。
バスタブを外してシャワーブースにする場合は、工事費が40〜50万ほどかかります。トイレの狭さは変わらないですし、お湯に入りたい方も一定数いるため、費用対効果としては薄いです。
また、三点ユニットをお風呂専用にして、押入れや居室部分にトイレを設置する方法もあります。これもまたお金がかかる上に居室スペースが狭くなり、家賃にそれほど反映されないので得策とはいえません。
三点ユニットバスがある物件は、そのままの状態で幾らの家賃にするか考えた方がいいと思います。
後編に続きます↓