成功者に学ぶ!シングルマザー向けシェアハウスを運営するコツとは
ここ数年、シングルマザー専用のシェアハウスが少しずつ増えています。不動産投資や賃貸経営を考える人の中には、シェアハウスの運営を検討している人もいるのではないでしょうか。投資を成功させるのが難しいといわれているシェアハウスではありますが、中には成功を収める会社もあります。
そこで今回、不動産の学校では、数々のシェアハウスを運営する会社『株式会社 Peace Festa(ピースフェスタ)』の代表である越野 健(こしの けん)さんに、シェアハウスの運営にまつわるさまざまな話を伺いました。ピースフェスタでは、どんなシェアハウスを、どんな方針で運営しているのでしょう。シェアハウスの運営に興味のある人は、ぜひ参考にしてみてください。
『株式会社 Peace Festa』とは
自身も2008年にシェア生活を始め、2012年にはシェアハウスの運営を始めたという越野さん。
そんな越野さんが代表を務めるのは、大阪に拠点を置く『株式会社 Peace Festa(ピースフェスタ)』です。
※以降『ピースフェスタ』と表記
ピースフェスタでは、シェアハウスの運営事業に加え、セミナーをはじめとする教育事業をおこなっています。
2016年からは、1人1人が主役になれる場を作りたく、LGBT当事者の方向けのシェアハウスやシングルマザーの方向けのシェアハウス、彼女らの雇用が生まれる飲食店など、新たな挑戦を継続中。
2019年シングルマザー専用のシェアハウスをOPEN!
2019年9月現在、ピースフェスタが運営しているシェアハウスは全部で3つあります。
1つは「社会起業×実践の場」をテーマとする『オモデザハウス天満(てんま)』、もう1つは「国や性の多様性」をテーマとする『glitter(グリッター)ハウス柴島(くにじま)』です。
そして、2019年7月には3つ目となるシェアハウス『ideau(いであう)』を大阪市平野区にOPENしました。『ideau』はシングルマザー専用のシェアハウスで、「シングルマザー×雇用×助け合い」をテーマとしています。
シングルマザー専用のシェアハウスは、シングルマザーを助けるシステムとして数年前から注目を集めています。とはいえ、まだまだ関西では珍しい存在です。
では、ピースフェスタがそんなシングルマザー向けシェアハウスを運営し始めた理由とは、一体どんなことだったのでしょうか。運営を始めたきっかけについて、代表の越野さんに尋ねてみました。
ピースフェスタがシングルマザー専用のシェアハウスを始めた理由
ここからは、越野さんに伺った話をインタビュー形式でお伝えします。
シングルマザー専用のシェアハウスを始めたきっかけは?
ちょうど3年前、天満のハウスに問い合わせが来たんですね。それも1か月のうちに3件ぐらい立て続けに、ポンポンポンと。
それが、全員シングルマザーの方だったんですよ。子連れで入居できないですか? みたいな問い合わせで。そのときに「あーそうか、確かにそういうお困りごともあるか」と思って。それが最初のきっかけでした。
うちはLGBT専用のシェアハウスも運営していて。もちろんぼくはシングルマザーでもないしLGBTでもないんですけど、シェアをすること(助け合うこと)でお互いに生活の価値を高め合えるようなお手伝いが何かできるんであれば当事者の方と一緒にシェアハウスを始める、っていうスタンスでずっとやってます。
LGBT専用のハウスもそうですけど、運営する上では当事者からの需要があるっていうのが1番やりやすいんですね。一般的な不動産って物件ありきで入居者を募集するじゃないですか。でも、あれって実は結構リスクがあることで。
変な話、今ここに住んでくれてるママさんもオープンする前から交流を持っていて、シェア生活を通じてやりたいことを前もって聞いていました。「あなたたちが本当に住みたいんだったら、ぼくは物件を借りるよ」みたいな感じで進めましたね。
シェアハウスの場所をここにした理由は?
おととしくらいにここのオーナーさんが「一緒にやってくれる人、募集中!」みたいなFacebookの広告を出していて、「こんな長屋あるんだなぁ、いいなぁ」と思っていて。
というのも、ここって最初は10軒分の長屋を改装して出会いと創造の場を作る「ぐるぐる そだつ ながや」っていうプロジェクトを、オーナーさんが企画していた物件だったんですね。
それからもいろいろ物件を探していたんですけど、最終的に「やっぱりここが良い」ってことになって。それで年明けぐらいにオーナーさんに改めて連絡をして、「こういう用途で物件を探してるんですけど」って感じでジョインさせてもらった、という流れです。
インタビュアー
場所をお借りして運営している形なんですね。ということは、毎月の家賃をオーナーさんに支払っているということでしょうか?
越野さん
そうです。だから改装費はオーナーさんが出してくれた形ですね。
実は着工前の設計段階からオーナーさんには部屋の設備について要望を伝えるだけだったんですけど、もともとの部屋になかった浴室を2階に作ったこともあって、費用が大分かかってるみたいで。
ここだけの話、1年ぐらい前にオーナーさんが総工費の話をポロッとこぼしたことがあったんです。その日はもうプレッシャーでおえつが止まらなくて。「そんなにかけてくださってたの~!」みたいな(笑)眠れませんでした。
シングルマザー専用シェアハウス『ideau』のこだわり
続いて、取材にお邪魔したシェアハウスの具体的な設備や方針などについて伺いました。
ここからは、取材に同席していただいた安田さんも登場します。安田さんは『ideau』に暮らしながら運営のお手伝いもしている、いわばハウスリーダーのような存在。もちろん、安田さんもシングルマザーです。
『ideau』の設備で1番こだわったのは?
越野さん
こだわった部分というか、大切なのはバランスかなと思ってて。
各部屋に水回りはあるんです、トイレとお風呂と、あと洗面所。
安田さん
シングルマザー向けのシェアハウスに住んだことがあるママさんに聞いたら、お風呂の順番ってやっぱり気にするんですって。新しく入った人はなかなか言えんと「どうぞどうぞ」って言うから、結局は古い人(入居歴の長い人)から入っていくっていう風になりがちで。
そういう話を聞いて、それならもうそこはちゃんと区切って、プライベートはプライベート部分、共有部分は共有部分って分けるのが1番かなって思ったんですね。
あと、やっぱり子どもがいるんで、誰かがインフルエンザになったときとかノロウィルスにかかったときとかも困るらしくて。除菌のスプレーと漂白剤が欠かせへんかったていうのも、他のシェアハウスに住んだことがあるママさんから聞いて。
インタビュアー
それで各部屋に水回りを用意したんですね。
安田さん
そうなんです。
もともと長屋だったんで1階と2階を合わせて1戸だったんですけど、それを1階と2階に分けて、2階は部屋と部屋の間にあった壁も壊して直接キッチンに行けるようにしました。
でもドアに鍵が付いてないと母子家庭の手当が支給されなくなる可能性もあるって言われたので、ドアに鍵も付けて。各部屋に鍵が付いてないと、1世帯ごとが独立してるとは認められないみたいです。
※支給要件は自治体によって異なります
インタビュアー
間取りによっては母子家庭の手当にも影響があるんですね!
そういった設計は、おふたりで考えられたんですか?
安田さん
いえ、設計士さんが考えてくれました。
オーナーの知り合いの設計士さんなんですけど、めっちゃいろいろ考えてくれて。
インタビュアー
各部屋の共用部分はキッチンだけですか?
安田さん
あとはベランダと、玄関周りも共用ですね。
『ideau』で暮らす上でのルールは?
越野さん
ぼくは一切ルールを決めてなくて。
一般的な会社がやってるシェアハウスと比べたら、ぼくは多分、逆のことをやってると思うんですよ。住む人が変われば心地いい価値観も絶対に変わってくるんで、ルールは決めないようにしています。
その代わりに、新しいメンバーが入ったらパーティーとかしながら家族会議をする、みたいな。そうやってルールはみんなで決めてもらうようにしてるので、管理すらしてないです。
むしろ何もしてないかも。住人の御用聞き、みたいな(笑)
でも、あんまりルールを決めないからこそ、逆にこんな価値観もあるんだと気付けることもありますよね。
基本的にぼくは対話することをすごく大事にしているので、他に運営してるハウスでも会社からの一方的なルールって決めてないんですよ。運営側からルールで縛り付けるようなトップダウン式にするんじゃなくて、もっと人間関係も風通しが良いような感じで運営したいなと思っていて。
だから、LGBTのハウスもそうなんですけど、いつもぼくは当事者を1人ハウスリーダーみたいな感じにしてるんです。
ぼくがここにずっといるよりも、同じシンママの方が入居者さんにとっても良いだろうなっていうのがあって。だからママさんの様子は常々、安田さんからいろいろと報告してもらってますね。
インタビュアー
そのために安田さんが同居している感じですか?
越野さん
そのために住んでもらっている、ということではないですけど、そういう意味合いもあります。正社員として雇っているワケではなくて、形態としては業務委託みたいな感じですね。
あとは、ケンカしたりとか、そういうことこそが多分シェアハウスの価値だと思うんで。住人同士のケンカとかってないんですか? ってときどき聞かれるんですけど、むしろ大歓迎です、みたいな。
別のシェアハウスに住んだことがある人によると、「日常の小さなことでケンカになるからハウス内では住人同士の交流がほとんどない」みたいな話もありまして。
でも、そもそも対話できてないし、分かり合おうともしてないから逆に壁ができていざこざが起こると思うんですよね。本来ならそうやってぶつかり合うことこそがシェアの価値なハズなのになぁと。
それに、一緒に暮らしていると、ママ友や同居人っていうより家族になるんですよね。血のつながっていない姉妹みたいな感じで。
なので、管理しないことが管理のコツみたいな感じですかね(笑)
ピースフェスタと『ideau』が大切にしていること
続いて、現在3つのシェアハウスを運営するピースフェスタならではの考え方について話を伺いました。
シェアハウスを運営する上で大切にしていることは?
越野さん
他のハウスでも意識をしてる部分なんですけど、安かろう悪かろうは絶対うちはやらないと思っていて。
1回それで大失敗したことがあったんです。すごい激安シェアハウス! みたいなハウスをやったら、いろんなタイプの人が集まりすぎて、いわゆるカオス状態になっちゃって(笑)結果的にトラブルの対処とかに追われてしまったんですよね。
インタビュアー
他のシングルマザー専用シェアハウスに比べると、『ideau』の家賃(7万円)はどうなんでしょう?
越野さん
大阪近郊のシンママハウスでいえば、うちが1番、高いと思います。
うちはキレイさも1番だと思いますけど、工事が終わったばっかりなんで。他のシンママハウスだったら4万円台とかもあります。
周りのシンママハウスが4万~5万だったので、「シンママさんのおサイフ事情ってこんなもんなんかなぁ」と思って見ていたんですけど、他のシンママハウスよりは高くしようと思っていて。
シェアハウスに限らないですけど、どっか契約して住むっていうのは何か目的があるからじゃないですか、住むことがゴールではなくて。たとえば職場に近いからとか。
そう考えたときに、わざわざシェアハウスを選ぶのはやっぱり1人1人その先の目的が絶対あるハズで。ぼくが運営している天満の起業家ハウスでいえば、みんなでノウハウとかを分け合って自分で何かの仕事に生かしたいっていう目的だとか。
シンママハウスであれば、とにかく安いところに住みたいっていうママもいらっしゃるかもしれないですけど、でも安いところに住みたいっていうのは何でかっていったら収入がないからであって。でもじゃあ収入がないからどうしたいかっていったら、収入を上げたいっていうのが絶対あるハズなので。
他のハウスよりも高くするけれども、その分たとえば正社員になるまで応援するよーとか、そこまでやるよっていう意味での7万円。来年(2020年)からはママさん向けの小商い塾も始めるんですよ、好きなことで5万円~10万円ぐらい稼げる力を持ってもらいたくて。
だから、うちの家賃は他より高めに設定したつもりなんです。
離婚後も自分の人生を思いっきり楽しみたい! というママさんを応援したいので、人柄とその人が放つエネルギーみたいなところでしか見てないんですけどね。たとえば極端な話、生活保護を受けないとどうしようもなくて……っていうママさんでも、ここから抜け出したい! 自立したい! ってママさんであれば全然、大歓迎です。
それに、シェアをして助け合うことで、より生活が豊かになることもあると思います。シングルマザーのハウスだったら、代わりにご飯を作ってあげるとか、その代わりに残業をしてきて大丈夫だよーとか。
ここに住んで正社員になれたっていうママさんもいるんですよ。今まで1人で全部やってたときはパートタイムの仕事しかできなかったけどっていうママさんでも、お互いに助け合えば正社員になれるかもしれない。
もうすぐ、そうやって正社員になれた2人目のママさんも誕生します。
安田さん
私は「シングルマザー=しんどい・貧困」っていう考え方は避けたいと思ってますね。「シングルマザーやからできひん」やなくて、できることを見つけていこうよって思ってやらせてもらってるので。
シングルマザーやから、大変やからシェアハウスやったらええんちゃんみたいな、安易な感じではないです。
他のシェアハウスは、多分それで苦労してるんですよ。シングルマザーで大変やから家賃を安く設定して、それで結局お金が回らなくなってつぶれちゃったとか、閉鎖しようかとか、予定変更しようかっていう風になってる話をよく聞くので。
シングルマザーの話題って、ニュースとか見ても大変な部分しか出てこうへんくて。貧困の連鎖! みたいな。それが嫌なんですよね。
大変なことはあるけど「シングルマザー=ツラい」ではないよ、あなただからできることも絶対あるよってことを、私はママさんたちに伝えたいです。
空き家リノベーションによる新たなハウスも検討中
最後に、今後の展開についても話を伺いました。
これからまた何か新しいシェアハウスを始める予定が?
越野さん
そうですね、考えてはいます。昨日もちょっと昼間に打ち合わせしてたんですけど、豊中の方にいる家主さんから相談をもらってて。
空きマンションとか空きアパートの家主さんと昨日は打ち合わせしてたんですけど、いわゆる文化住宅というか、長屋のオーナーさんて大阪には多くて。そこの家主さんとは、DV被害に悩んでるシンママさんとか、赤ちゃんを生んで間もない時期に離婚しちゃったとか、そういった緊急性の高いシンママさんのために何かできないかなっていう話をしてたんですね。
実際に問い合わせがあったんですよ。「生後2~3か月ぐらいで離婚しちゃった女性がいるんだけど『ideau』に入れるかな?」って。
でも、シンママハウスとはいえど、ここは赤ん坊の世話には適してないなっていうのをそこで改めて教わったんです。
ぼくは暮らしたい人のニーズにお応えできるなら動くみたいな感じなんで、その豊中の家主さんとか、本当に共感してくれる人とまた何か一緒に作っていけたらいいなとは思っています。
まとめ
越野さん、安田さん、この度は貴重なお話をお聞かせいただきまして、本当にありがとうございました!
物件に合わせて暮らしてもらうのではなく、住人の暮らしに合わせて中古物件をリノベーションする。ニーズがあることを知った上で実行に移す。この辺りは、まさに目からウロコともいえる事業の始め方ですね。
都市部では頼れる親戚がいない状況も珍しくないため、1人で踏ん張っているシングルマザーは大勢います。そんなシングルマザーがお互いに助け合えるのは、お互いが同じシングルマザーだからこそではないでしょうか。ただの同居人ではなく家族になる。そんな関わり方ができるのも、シェアハウスならではの特長といえるでしょう。
空き家を貸してくださるオーナーさんがいれば、中古物件を購入しなくてもシェアハウスを使った不動産投資が可能となるかもしれません。シングルマザー専用シェアハウスの運営に興味がある人は、シングルマザーのリアルなニーズを徹底的にリサーチしてみてはいかがでしょうか。
空き家のオーナーさん、一度ご相談ください!
ピースフェスタは、空き家の使い道に困っているオーナーさんを探しています。もしいらっしゃれば、ぜひ一度ピースフェスタの越野さんまでご相談ください。
越野 健(こしの けん)プロフィール
大学在学中に世界一周後、イノベーションを起こすことに憧れてスローガン株式会社でインターンを経験。広告制作会社やシンクタンク系の民間非営利団体(NPO法人)を経て環境省に勤めた後、2009年12月に独立し、講師業とシェアハウス事業に転換。セミナー通算130本、延べ約3,500人の方々と関わりを持つ。2016年からは1人1人が主役になれる場を作りたいと考え、LGBTやシングルマザー向けシェアハウスの運営を開始。
『株式会社 Peace Festa』公式ウェブサイト:http://peacefesta.com/