賃貸経営では、家賃収入と所有する不動産それぞれに税金がかかります。具体的には所得税や住民税、固定資産税などです。そして、税金の一部は、賃貸物件を住居用にするか、事務所や店舗といった事業用にするかで金額が変わります。住居用と事業用の大きな違いは、消費税と固定資産税です。簡単にいうと、住居用であれば消費税が非課税となり、固定資産税の軽減制度が利用できます。
今回は、住居用と事業用の違いを含め、賃貸物件にかかる税金について解説します。物件の用途を決めるときには、税金の違いも含めて検討してみてくださいね。
家賃収入にかかる税金:所得税・住民税
最初に、家賃収入にかかる税金を見てみましょう。
家賃収入にかかる税金は、所得税と住民税です。
ただし、所得税と住民税は、家賃収入だけでなくそのほかの所得も含めた個人の所得に対してかかります。そのため、副業で不動産投資を行っている場合は、本業の給与と合わせた所得で計算します。
課税対象となる所得
不動産投資の家賃収入は不動産所得に当たります。そして先ほど伝えたとおり、所得税と住民税は不動産所得とほかの所得を合わせて計算します。
所得を全て合算して課税する方式を「総合課税」、合算せずそれぞれの所得に課税する方式を「分離課税」といいます。
10種類の所得の中で、総合課税は以下です。
- 事業所得
- 不動産所得
- 配当所得
- 給与所得
- 雑所得
- 山林所得
- 一時所得
内容によっては、総合課税と分離課税に分かれるケースもあります。詳しくは、こちらの公式サイトをご確認ください。▷『所得の種類と課税方|国税庁』
不動産所得の計算
続いて、不動産所得の計算方法を紹介します。
所得とは、収入から必要経費を引いた金額のことです。では、不動産所得の収入と必要経費にはどのようなものがあるのでしょうか。
まず、不動産所得に当たる収入は家賃だけではありません。
家賃収入以外にも
- 礼金
- 更新料
- 共益費・管理費
- 駐車場
などは不動産所得に当たる収入として計算します。
また、不動産投資では、
- 保険料
- 管理委託費
- 修繕費
- 減価償却費
- ローン金利
- 税金
などを経費として計上するのが一般的です。
なお、賃貸物件をローンで購入した場合、金利は経費として計上できます。火災保険や地震保険などの保険料、家賃徴収や清掃といった賃貸物件の管理を委託する場合の管理委託料も経費です。家賃収入を得るためにかかった費用が必要経費だと考えれば、分かりやすいでしょう。
税金も経費になりますが、住民税や所得税は経費として計上できないため、注意が必要です。先に伝えたとおり、住民税と所得税は個人の所得にかかる税金であり不動産だけに関係する税金ではないため、経費には当たりません。
経費に計上できるのは、後にお伝えする固定資産税や個人事業税、不動産を購入するときにかかる不動産取得税、収入印紙代などです。
そのほか、不動産の登記や確定申告の手続きを依頼した場合、司法書士や税理士に支払う報酬も経費として計上できます。入居者募集の広告費や賃貸物件に関係する交通費や書籍代など、家賃収入にかかわる細かな費用も経費として計上しましょう。
所得税と住民税の税率
所得税の金額は、合算した所得金額から所得控除を引いた金額に所得税率を掛けて算出します。
所得控除には
- 基礎控除:38万円
- 配偶者控除:38万円
- 扶養控除:38~63万円
- 医療費控除
- 生命保険料控除・地震保険料控除
- 個人年金保険料
などがあります。
賃貸経営のほかに給与を受け取っている場合は、給与所得控除も受けられます。
所得税率は所得金額で異なります。所得金額ごとの税率は以下のとおりです。
課税所得金額 | 税率 | 控除額 |
195万円以下 | 5% | 0円 |
195万円超え330万円以下 | 10% | 9万7,500円 |
330万円超え695万円以下 | 20% | 42万7,500円 |
695万円超え900万円以下 | 23% | 63万6,000円 |
900万円超え1,800万円以下 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円超え4,000万円以下 | 40% | 279万6,000円 |
ただし、税率は課税される所得金額を超えた金額に適用します。
課税所得金額が300万円なら、195万円までは税率5%、300万円までは税率10%で計算します。段階を踏んで計算するとややこしいのですが、課税所得金額に税率を掛け、税率ごとに決まっている控除額を引くと簡単に計算できます。
例えば、課税所得金額が300万円なら「300万円×10%-9万7,500円」と計算し、所得税は20万2,500円です。
また、所得税には2037年まで2.1%の復興特別所得税が上乗せされます(※)。
住民税は課税所得金額の10%が基本ですが、一部地域では住民税の税率が異なることもあります。
金額によってかかる税金:消費税・個人事業税
家賃収入や不動産所得の金額によっては、消費税や個人事業税が課税されます。
課税売上高1,000万円超えで消費税
消費税の対象となる売り上げが年間1,000万円を超えた場合、消費税を支払う必要があります。
ただし、消費税の課税対象なのは事務所や店舗といった事業用の収入のみです。住居用の物件は課税対象ではないため、住居用物件の家賃収入が年間1,000万円を超えても消費税は課税されません。
住宅用の物件だと認められるためには、
- 賃貸借契約書に住宅用と明記
- 賃貸期間が1カ月以上
が条件です。
また、住宅用物件であっても、賃貸期間が1カ月未満なら消費税の課税対象なので注意してください。
住居用と事業用で異なる税金の1つが消費税で、住居用は非課税、事業用は課税です。
事業所得が290万円超えで個人事業税
続いて、個人事業税について見ていきましょう。
不動産所得が事業規模になった場合、個人事業税が発生することがあります。
具体的には、
- アパートやマンション10部屋以上
- 戸建て5棟
の5棟10室基準に該当すると事業規模とみなされます。
ただし、個人事業税は控除額が290万円あるため、課税所得が290万円以下だと個人事業税は非課税です。
また、家賃収入が事業規模だと不動産所得でなく事業税として申告が可能です。その場合、確定申告を青色申告で行うと、最大で65万円の控除を受けられるメリットがあります。
不動産を所有する場合にかかる税金:固定資産税
これまでにお伝えした税金は、家賃収入に対してかかります。
対して、固定資産税は所有する不動産にかかる税金です。固定資産税は、固定資産税評価額に税率を掛け、そこから軽減額を引いて求めます。土地と建物それぞれに課税されます。
計算1.土地や建物の価格
土地の評価額は、土地の面積に路線価を掛けて求めます。路線価とは、道路に面した土地の1平方メートルあたりの評価額です。
建物の評価額は、再建築価額から年数の経過による傷みや劣化分を減額して求めます。再建築価額は、ざっくりいうと同じ建物をもう1回建てるにはいくら必要かを計算した価格のことです。
計算2.税率
固定資産税の標準税率は1.4%です。
ただし、市町村が税率を変更できるため、税率1.4%以上の自治体もあります。
計算3.軽減額
賃貸物件が住居用か事務所や店舗などの事業用かで大きく変わるのは、固定資産税の軽減額です。
固定資産税には、土地・建物の両方に税金を減額する軽減制度があります。しかし、軽減制度があるのは住宅用の物件、土地のみです。
例えば、200平方メートル以下の小規模住宅用地は固定資産評価額が6分の1、200平方メートルを超える一般住宅用地は3分の1になります。
また、2020年3月31日までに新築した場合、戸建て住宅は3年間に渡って120平方メートル分の固定資産税額が半分、3階建て以上のマンションなどは5年間に渡って固定資産税が半分になります。
そのほか、50万円を超える耐震リフォームも固定資産税が減額されます。ただし、軽減制度の中には賃貸物件が対象外の精度もあるため、詳細をしっかり確認しましょう。
所有している賃貸物件の条件に合う軽減制度を利用すれば、固定資産税を大幅に節税できます。
まとめ
賃貸経営にかかる税金は、家賃収入と不動産にかかる税金がありました。物件の用途が住宅用か事業用かで異なるのは、消費税と固定資産税の軽減制度です。住宅用の物件の場合、家賃収入が1,000万円を超えても消費税は課税されません。賃貸物件の用途を決めるときは、支払う税金や節税できるかどうかも考えてみましょう。