平成の汚点、ゆとりローンとは?今でも払い続けている人がいる現状と終身雇用、年功序列を考える

  • 2020/9/30
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マイホームを買うにつけ、投資用物件を買うにつけ、ローンは強い味方です。ところが、ローンの中には甘い試算のために、その後に大きな苦労をしなければならないものもあります。今回は、平成の汚点ともいえる「ゆとりローン(ステップローン)」を組んでしまった人の話を交えながら、ローンについて考えていきます。

ある男性の身に今でも続いている不幸とは?

ある飲み会で、住宅ローンの話になりました。集まっているのは全員50過ぎ。住宅ローンを払っている人たちは、後半戦に差し掛かっているわけです。

「住宅ローンで、その後の人生を狂わせた人がいる」という話しになったとき、「俺だ」という人がいました。「俺はすべてが最悪だった」と言うのです。さらに、「その不幸は今でも継続中」と言うのですから、話を掘り下げないわけにはいきません。

バブルがはじけた直後、「買い時だ!」と感じて埼玉に家を買う

Mr.不幸ともいえる彼が社会人となった時代はバブルが絶頂期むけて湧いていた頃。このまま日本は右肩上がりに景気が上向いていくに違いないと信じて疑わない時代でした。ところが、バブルは崩壊します。

これがいつのことかご存じでしょうか?
公式には1991年(平成3年)3月から1993年(平成5年)10月までの景気後退期を指すのだそうです。

ところが彼の勤めていた会社は崩壊後も成長を続けていたそうで、最初は影響がなかったと言います。このバブルは不動産バブルと言われ、地価は平成3年を境にガクンと落ち始めます。それを見た彼は、「家を買うチャンスだ」と確信し、埼玉に家を買うことにします。「新宿まで30分で出られる」とのうたい文句の分譲住宅だったそうです。

子どもが小さいこともあり奥さんは働いておらず、銀行や信用金庫ではローンが通らず、いわゆるノンバンクでローンを組んで購入したそうです。しかも、ゆとりローンで…

終身雇用と年功序列が当たり前だったころ遺産?! 恐怖のゆとりローン

ゆとりローン(ゆとり返済ともいう)をご存じでしょうか?

平成4年から販売された住宅ローンで、住宅金融公庫(現在の住宅金融支援機構)で販売されたれっきとした商品でした。同じ仕組みで年金住宅融資(現在は廃止)が、ステップローン(ステップ返済)という商品を出していました。

このローンは、最初の5~10年間の金利を抑える代わりに、その差額を後半で払うというもの。ローンを組んだ当初は返済が少ないものの、5年後と10年後にグンッ返済額がアップします。約倍額になることもある、恐ろしさ!
終身雇用で年功序列を大前提にしたシステムだったわけですね。

ゆとりローンはわずか8年で廃止になりますが、それは高確率で破綻者を生み出すということがわかったからです。でまさに欠陥商品。今となっては6人に1人が破綻しているそうで、公的機関のはめられたといっても過言ではありません。

でもこのローン。当時は素晴らしいものだと思った人が多く、開始年度に利用した人は70万人、翌年と翌々年合わせると100万人以上の人が利用したそうです。怖い!!

今考えると恐ろしいですが、彼は迷わず、このローンを利用するわけです。

銀行の金利は4~5%。金利も高かった!

ちなみに、この頃の金利がいくらぐらいか想像できますか?

このころはまだバブルの名残が残っていて、銀行や公庫などは4~5%台。彼はノンバンクで借りているわけですから、それよりも高かったわけで、なんと恐ろしい選択だったのかと思います。でも、バブル頃には金利が8%を超える時代もあったわけで、この時代としては安いとさえ感じるほどでした。

しかも、この当時は固定金利で借りる人がほとんど。鳥肌が止まりません!

めちゃくちゃ高かった埼玉の一戸建て

さらに恐ろしいことがあります。彼が買った埼玉の一戸建ては4LDK。新宿から(埼京線を利用すれば)30分で着くという立地でした。

このとき、すでにバブルははじけていたのですが、価格は一気に地に落ちたわけではなく、数年かけて徐々に、そして底なしに落ちていきます。つまり、彼が買った時点では確かにピークは過ぎていたものの、その後さらに下がり続けたわけで、彼が買った時は十分に高い状態だったわけです。

どれぐらいかと言うと…。
彼が買った価格は4700万円だったそうです。わたしは4年後に家を購入していますが、かろうじて渋谷区内という立地ですが、同じく4LDKで、5000万円。ほぼ同じ価格なんです!

もちろん庭の有無とか、2階建てと3階建ての違いとか、建売と売建で自由度が違うなどはありますが、それにしても渋谷区と埼玉が一緒ってね。

不景気で年収の上げ幅が鈍くなった

さてさて、その後の彼の人生をお伝えしましょう。

彼の勤めていた会社は今でもちゃんと存続しています。給料は言えば、以前の勢いでは上がりません。世の中がどういった所得の変動かは以下のグラフを参照してください。女性はこの間、社会進出が進んだこともあり、あまり参考にならないこともありますので、男性のみのデータを持ってきました。もちろん、彼の会社ではなく日本全体の話です(さすがに年収は聞けなかったので)。

所得グラフ

上がっていくと信じて疑わなかった給料。もちろんベースアップはしているでしょうが、上げ幅は非常に少なくなったということです。ちなみに、彼個人のことを言えば、これまた思ったほど出世せず、万年係長的立場にいるそうです。

家族関係が微妙になり、借り換えを決断する

さて、その後の彼はと言うと、周りの人が「早いとこ借り換えをした方がいい」と言ってくるのですが、なかなか重い腰が上がりません。最初にローンを組む時に銀行から突っぱねられたことを根に持っているのか何なのか、かたくなに借り換えに賛同しなかったようです。

家庭は円満だったようで、家を買った時点で子供は1人でしたが、その後子供は2人増えています。上の子が小学校、一番下の子が産まれた直後に5年目の、つまり最初の金利アップがあります。あらかじめ分かっていたはずなのに、夫婦で目が点になったと言います。

その後、ゆとり期間を完全に終える10年後には、上の子が高校受験を迎えるようになっていて、これからますますお金かかるというタイミング。給料は大して上がらず、発狂しそうになった奥さんと最大のピンチを迎えたそうです。結果、子育てをしながら働くためには夜しかないとちょっと不思議な発想に落ち着き、奥さんが夜中のコンビニで働くようになります。

そのタイミングになって、やっと借り換えに踏み切ります。ですが、ゆとりローンは返済期間が少ない時期にはほぼ金利しか返していないため、元本はほとんと減っていません。彼が借り換えをしようと思ったときには、「再びイチからローンを組み直すようなものだった」と言っていました。

あまりの酷さに家を手放そうかと思い、不動産屋に見積もりを出してもらったこともあったそうですが、築10数年の家は地価の下落もあり、当時の約半分。家を手放したところで、ローンはたっぷり残ってしまうことが分かり、さらにショックだったそうです。

不幸なだけではない。決断の甘さが現状を生んだ

なんとも不幸な話ですが、彼はどんなところで数々のミスを繰り返した結果こうなっています。

今となっては割高だった埼玉の家を買ったのはしょうがないにしても、バブルがはじけて先が見えない世の中に入っているにも関わらず、ゆとりローンを組んでしまったのが最初のミス。

そして、早い段階で借り換えを進められながら、なんだかんだと言い訳をして決断を伸ばしたのも大きなミスです。結局、どうしようもなくなってから借り換えをしたわけで(借り換えが出来ただけ良かったともいえますが)、もっと早く打つべき手を打っておけば落胆は今ほどではなかったはず。

さらに、彼は住宅ローンというとても大きな借金をし、その返済に苦しんでいるにも関わらず、ローン総額はいくらだったのか、借り換えをしたときに残高がいくらだったのか、元々の金利はいくらで借り換えをしたことで何パーセント減ったのかなど、今でもまったく答えられません。

そんなことだから…とつい言ってしまったほどです。

でも、そんな人は実はたくさんいるんだと思います。かく言う私も、むちゃなハワイ投資をしたときの数字を完全に忘れているわけで、人のことは言えないわけですが…

とにもかくにも、住宅ローンに限らずローンを組むというのはかなりの決心と、それなりの計画がいること。銀行に言われるがままローンを組んでしまえば一生棒に振ることだってあるわけで、慎重にすべきことだと思います。

もちろん、住宅ローンがダメだと言ってるわけではありません。ただ、同じミスをしてほしくな…と思っているだけです。

原田園子

原田園子ディレクター

投稿者プロフィール

「不動産の学校」のディレクター兼ライター。
住宅メーカーや不動産業者をクライアントに持っています。
不動産関連の取材実績も多数あり。
不動産投資から日々の暮らし記事まで、幅広く担当します。

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