不動産鑑定士の役割と、なるにはどうしたらいいのかを一挙紹介
不動産の経済価値、評価を行える資格が不動産鑑定士。その合格率は毎年5%程度とかなりハードルは高め。それだけに、資格を有している人は、日本の経済を支える土地評価のプロフェッショナルといえます。
そんな不動産鑑定士の役割と、不動産鑑定士になるにはどうしたらよいのかをご紹介します。
不動産鑑定士とは
日本には『三大国家資格』と一般的に呼ばれている資格があります。耳にしたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか?
【三大国家資格】
・『司法試験』
・『公認会計士』
・『不動産鑑定士』
どの資格も取得試験の難易度はかなり高く、難関です。そんな資格として名前を連ねているのが不動産鑑定士。不動産鑑定士とは、土地や建物など不動産の鑑定評価を行う人をさします。資格は国家資格。国土交通省が管轄、管理している資格です。
不動産の鑑定評価は不動産鑑定士しか行うことが出来ません。宅地建物取引士も不動産の鑑定評価を出来そうですが、宅地建物取引士が関わることの出来る事項は、不動産の売買や賃貸に関すること。建物や土地の賃貸評価を行うのは不動産鑑定士の役目であり、付随して鑑定に関わるコンサルティング業務までを一手に引き受けることが多いようです。
不動産鑑定士の仕事とは
不動産鑑定士の役割はその名の通り、日本における不動産鑑定にあります。不動産を資本とした日本経済の軸となるものを作りだす仕事と言っても過言ではありません。では、具体的にどのようなことを行っているのか。大きく分けて2つあります。
1. 不動産を鑑定評価すること
2. 不動産鑑定評価書を作成すること
また、鑑定評価は2種類に分類されます。
・公共機関に関わる不動産鑑定評価
・民間企業に関わる不動産鑑定評価
不動産鑑定業は公共機関に関わる鑑定業務がその多くを占めると言われています。都心部よりも地方に行けば行くほどその色合いは濃く、仕事全体の7割程度まで公共事業で占めるのが現状です。そのため、不動産鑑定士は設備投資なども必要ないので独立しやすい業種であると言われることが多いのですが、公共機関とのつながりが深い業態だけに、地方で独立して新規参入するといった公共事業と繋がりを持つのは難しいのが現状です。
逆に都心部においては民間企業、金融機関やデベロッパー、大手上場企業との仕事が多く、独立するよりも不動産鑑定事務所で働く不動産鑑定士が多く存在します。
公共機関に関わる不動産鑑定評価
公共機関、国、地方公共団体などとの鑑定業務としてはどのようなものがあるのか、具体的に4つの公共事業をあげて、見てみましょう。意外と身近なところで不動産鑑定士が活躍しているのがおわかりになると思います。
・地価公示
・地価調査
・相続税標準地評価
・固定資産税標準宅地評価
地価公示
毎年、3月になると新聞、ニュース、ワイドショーで「中央区銀座の土地が今年も1番高い!」、「北海道のどこそこの土地が安い!」といった地価公示が発表されて話題になりますよね。あの地価公示ももちろん、不動産鑑定士が評価し、土地鑑定委員会が決定して発表しています。平成30年では全国26,000地点の標準値を不動産鑑定士が評価しました。
地価調査
国が地価公示法に基づき事業を行うのが地価公示ですが、地価調査は国土利用計画法の施行令に従って、都道府県が行うのが地価調査になります。地価公示が毎年1月1日の価格で発表しますが、地価調査は毎年7月1日に価格を発表します。
相続税標準地評価
路線価の評価を行うのも不動産鑑定士の評価鑑定によるもの。路線価とは土地に相続税を課税する際に、評価の基本となる土地の単価を地図上に示したものです。この土地評価を元に課税し、不動産屋さんが土地価格査定の目安に用います。
固定資産税標準宅地評価
固定資産税に関わる土地評価ももちろん、不動産鑑定士が行っています。こちらは毎年評価が行われる相続税路線価と違い、3年に1度、評価します。標準宅地が市町村から依頼されるため、ものすごく多くの土地評価を行うことになります。
さらには、こうした土地鑑定以外にも公共事業による土地評価鑑定では、道路拡張工事による土地評価、用地買収による価格評価、不動産競売にかかる競売評価など、たくさんの評価鑑定を行っています。
不動産鑑定士になるには
不動産鑑定士になるためには、国土交通省が管轄管理する国家資格試験に合格することが必要です。資格試験は年に1回、試験内容は短答式の試験を受けて、合格すると論文式試験に進む形式です。
・短答式試験:行政法規、鑑定理論
・論文式試験:民法、経済学、会計学、鑑定理論
短答式試験合格者は2年間、短答式試験の合格資格を所持することが出来ます。たとえば、資格試験を受けて、短答式試験に合格、次に進んだ論文式試験で落第しても、翌々年まで2回、短答式試験が免除され、論文式試験のみ受けることが出来るということです。
短答式試験は毎年5月頃、論文式試験は7月頃に実施されます。
不動産鑑定士の現状とこれから
平成29年7月、不動産鑑定制度の充実を図るべく開かれた不動産鑑定評価懇談会の成果報告書が公表されました。その中で、一部新聞やメディアでも取り上げられた提言があります。
・試験制度や研修制度の見直しによる不動産鑑定士の人材育成の充実。
(不動産鑑定評価懇談会の成果報告書から引用)
不動産鑑定士を目指している方、気になっている方は、この項目に注目されるのではないでしょうか。何故なら、この提言は「最終合格率5%とも言われる難関な試験が現状よりも合格しやすくなる」と捉えて間違いないことですからね。ただし、これはあくまでも制度の見直しであり、試験自体が容易になるというわけではないようです。
これは不動産鑑定士の現状を踏まえた上での提言となっています。現状、不動産鑑定士の登録者数は約8,300名であり、年代的な割合は40代~60代がその多くを占め、20代~30代は全体の10%程度。また、不動産鑑定士試験の受験者数も平成18年から平成27年まで減少傾向が続き、平成28年に微増しているものの、20代~30代の申込者数が大幅減少しているとのこと。そのため、若手を取り込み、人材育成を図るのが狙いのようです。
不動産鑑定士試験は変わるのか
具体的にどのように不動産鑑定士試験が変わるのか。平成31年3月現在では、まだ施策としたところまでしかわかっていません。その中で、試験において取り組むべき施策として具体的に明示しているのは1点。不動産鑑定懇談会の成果報告書にあります。
不動産鑑定士試験における新たな免除制度の導入
(不動産鑑定評価懇談会の成果報告書から引用)
短文式試験においては2回(2年)の免除が設けてありますが、どうやら論文式試験においても、免除制度を導入するようです。以下のように記しています。
他の資格試験における免除制度を参考としつつ科目合格の要素を取り入れ、試験に不合格であった場合でも、民法、経済学、会計学のうち土地鑑定委員会が相当と認める成績を得た試験科目については、一定期間受験を免除する制度の導入を図る。
(不動産鑑定評価懇談会の成果報告書から引用)
まとめ
不動産鑑定士、その役割と資格所有の方法はおわかりになりましたか?資格を得るにはハードルがかなり高めですが、それだけに志を高く持ち、不動産のエキスパートを目指すのも良いでしょう。近年の少子化を踏まえた空き家問題、人口減少による農地再評価など、不動産鑑定評価のニーズに柔軟に対応できる不動産鑑定士を目指して、ぜひ日本経済を支える存在になってください。