まさか夜逃げ?! その時の対処法とやるべき手続き

大家さんにとって怖いのは、賃借人によるトラブルです。中でも最も避けたいのは「夜逃げ」ではないでしょうか?
夜逃げは、家に入ると「住居侵入」、家財を処分すると「賠償請求」の可能性があり、それゆえ次の入居者を探すことができなくなるという、実にめんどうなもの。ここでは、万が一夜逃げされたときにどうすればよいかを考えていきます。
秘訣は、怒りを抑えて粛々と対応すること。泣くに泣けない夜逃げトラブルを回避するためには、その後の適切な対応が重要なのです。

 

決して人ごとではない「夜逃げ」。なんと、トラブルの約1割もある!

夜逃げなんて人ごと! そんな風に考えている大家さんも多いのではないでしょうか?
でも、その考えは甘いのかもしれません。オーナーズ・スタイルが行った「これまで起きた入居者トラブルについてのアンケート調査」(複数回答)によれば、最も多かったのが
家賃滞納・入金の遅れ」(38.3%)。
このうち、
強制退去」となった人が12.4%もいます。

そして、肝心の夜逃げ・失踪」は、なんと9.2%!
入居者トラブルの約1割が夜逃げと言うことです。決して人ごとと言えない理由は、この多さにあります!

 

「まさか、夜逃げ?」と思ったら、まずは家を見に行く。しかし・・・

家賃の入金が遅れ、入居者と連絡がつかない・・・。
これほど恐ろしいことはありません。大家さんは、滞納であれば怒りの方が強いかもしれませんが、連絡がつかないとなると戸惑いの方が大きくなるでしょう。なぜなら、「夜逃げ」か「心中(一人暮らしなら孤独死)」というまさかの事態が頭をよぎるからです。また、夜逃げとまでは行かなくても、家賃が送れるようないい加減な人は部屋がとてつもないゴミであふれる「汚部屋」になっている可能性もあります。これは恐怖です。
そのせいか、家財を処分したうえで、「夜逃げします」と書かれた紙があったことで、「家賃滞納があるけど、良かった」とまで言う大家さんも少なくありません。

ちなみに、夜逃げが疑われるからと言って、鍵を開けてズカズカと家に入ってしまうと「住居侵入」になってしまいます。自分の物件なのに、なぜ?と言いたいところですが、そこには法律の壁があります。十分に注意してください。

 

放置された家財道具を勝手に処分すると処罰の対象に!

夜逃げの多くは数ヶ月前から家賃滞納が始まったというケースがほとんどです。この未回収も痛い話ですが、もうひとつの大きな問題が、放置された家財をどうすればいいのかということ。

大家さんとしては、家財がそのままでは次の賃借人を探せないこととイコールです。
夜逃げしたんだから、大家が勝手に処分して、早く次を見つければいいんだ!
といいたいところですが、そうはいかないのが夜逃げの恐ろしいところ。もちろん、家の中に「家財は処分してください。家は解約します」とかいて判子を押した書面があれば別ですが、ほとんどの場合、そんな気の利いたものは存在しません。なにしろ、夜逃げという普通ではあり得ないことが起こっているのですから・・・。

では、勝手に家財を処分すると、どのような処分が下されるのでしょうか?

それは、賠償請求です。

「荷物の中に高価なものが含まれていた」と主張された場合、結果的に膨大な請求をされたという事例もあります。「夜逃げをする人がそんな高価なものを持ってるはずないじゃないか」と言いたいところですが、処分してしまえば証拠も残らないこととなり、言われるがままに支払うしかない・・・という最悪な事態も起こりえるのです。

また、荷物を自分のものすれば「窃盗罪」。大家さんが権利侵害を受けているにもかかわらず、司法手続を経ずに権利の回復を図れば、法で禁じられている「自力救済」にあたるため訴訟を起こされたら勝てません。さらに、自分の持ち物件でありながら、住居侵入にも問われるのですから、踏んだり蹴ったりです。

 

夜逃げによる大家さんの負担

では、夜逃げされたことで大家さんがどんな負担をするのか、最悪の場合を想定して書き出してみましょう。

  1. 家賃滞納分は、回収できないケースが多い。
  2. 家財道具など、残置物の所有権は賃借人にあるため、大家さんは処分する権利がない。
  3. 大家さんが費用負担をして、訴訟を起こさなければならない。
  4. 残置物を撤去しても、数年に渡って保管をしておかなければならない。
  5. 次の契約ができないため、家賃が入ってこない。
  6. 原状回復にかかる費用は、すべて大家さんが負担するしかない。
  7. 数年後、残置物の処分にかかる費用もすべて大家さんが負担することになる。

よいことは何一つない上に、すべての作業が終わるまでに何年もかかるというのが最大の難点といえるでしょう。上記のように最悪なことにならないように、ひとつひとつやるべきことをやり、できるだけ早く解決するしかありません。

 

まずは、連帯保証人に連絡を取る

最初に考えるのは、何とかして借主を見つけて所有権を放棄させるということです。「夜逃げした人と連絡がつくはずない」と考える人が多いかと思いますが、連帯保証人は身内であるケースも多く、それゆえ、連絡を取っているケースは決して少なくありません。そのため、まずは連帯保証人に連絡を取ってみることをお勧めします。このとき、横柄な態度でいくと、実際には連絡を取っているのに「取っていない」と言われるケースもあります。その場合、さらにややこしい手続きが続いてしまうので、丁寧な対応を心がけるようにしてください。

ここで借主と連絡がついた場合、滞納家賃を請求することも大事ですが、何より優先したいのは荷物の処分。そのため「所有権放棄書」を書いてもらいます。これを書き、日付を入れて署名捺印をすれば、あとは大家が家財をすべて処分できるようになります。賃借人は事情があって家賃を払えないケースもあり、「家賃を滞納し、申し訳ない」と思いつつ、仕方なく夜逃げをしているケースもあります。その場合、「少しでも迷惑を軽減できるのなら」と意外とスムーズに所有権を放棄してくれることもあります。

また、連絡がつかない場合でも、未払いの家賃は連帯保証人に払ってもらいたいでしょうし、原状回復費も負担をしてもらいたいものです。そのために、保証人にいきなり請求書を送りつけたりせず、状況を説明した上で「連帯保証人には未払い家賃や原状回復費の支払い義務がある」ということを説明し納得してもらうようにします。その上で、金額を知らせるようにするとよいでしょう。また、原状回復費の見積もりは業者に請求して見せるなど、連帯保証人が納得できるようにしておくのがポイントとなります。

ちなみに、保証会社が入っている場合、気遣いは無用。手続きを粛々と進めてください。

 

住民票から住所が分かることもある

住民票によって、新たな住所が分かることがあります。夜逃げしたにもかかわらず、(しばらく経ってから)きっちりと住民票を移しているケースがあるのです。また、住民票はそのままでも、郵便物の転送手続きをしているケースもあります。このようにして引っ越し先の住所が分かった場合は、内容証明を送ります。

実は内容証明とは、「誰が誰宛てに、どんな内容の手紙を送り、いつ受け取ったか」を郵便局が証明するものに過ぎません。それでも、そこに未払い家賃の請求や残置物の処分について書いておけば、入居者がビックリして連絡してくるケースや、支払いをするケースがあります。まずは手近なこととしてやってみるようにします。

 

次は裁判書の手を借りる。ここで民事訴訟になることも・・・

次のステップは裁判となります。このとき、裁判所に申し立てて支払い督促をしたことで、音信不通だった借主がひょっこり現れ、滞納家賃などを支払ってくれることになれば万事OKです。
では、借主の居所がわからない場合はどうなるのでしょうか?
こういったときのために「公示送達」という手法があります。耳慣れない言葉ですが、これを利用すると相手がいなくても訴訟が可能となります。借主は住所がわからないわけですから、裁判に出席できません。つまり、反論もないということ。このため、大家さんの主張は全て認められることになり、家財道具もすべて撤去できるようになります。こうなると、本人は見つからない方がよいのかもしれません。所在が明らかな場合でも、無視すれば仮執行宣言が発行され、それでも意義申し立てがなければ、同じ手続きが踏まれます。

さて、この処分ですが、裁判で判決が出てから「強制執行」され、これが明け渡しの手続きとなります。執行官に夜逃げした家まで来てもらい、荷物を持ち出し、それを競売にかけて売却代金を申立人に支払ってくれます。もちろん、全てのものを持ち出してくれるわけではありません。価値がないと判断されたものは室内に残されますので、これを処分し、ハウスクリーニングをしてから次の借主を探すことになります。ですが、そのまま荷物が放置され、そのまま放置されるよりはマシだととらえ費用をかけてでも処分する選択をする方が賢明でしょう。

借主がいて、支払い督促を受け取り意義申し立てをした場合は、民事訴訟になります。ここでは「家賃の支払い義務がそもそもあるか」や「不法侵入」の有無などが法廷で争われます。

ちなみに、入居者の支払うべき金額が30万円以下の場合は、「少額訴訟」という形式で簡易裁判所に申し立てをします。これは1回の審理で結審されるため負担も少なくて済みます。30万円以上は通常訴訟となるとなります。こうなると時間がかかるだけでなく、精神的な負担も大きくなります。また、弁護士を付けるとコスト負担も増える上に、必ずしも満額払ってもらえるわけではありません。このような場合、支払額が30万円以上でも少額訴訟にする方がめんどうでないと考えるのもひとつの選択です。

 

夜逃げを防ぐには、家賃滞納に早々に対処するしかない

経済的な問題で夜逃げをする場合は、突然いなくなることは少なく、少し前から家賃が滞納されるケースが大半をしめます。逆に言えば、このタイミングで何らかの対応ができれば、夜逃げという最悪の事態は避けられる可能性が高いと言うことになります。

借主としても夜逃げは避けたいことでしょうし、借主は夜逃げによってさらに迷惑がかかってしまうことが分かれば、何らかの対処をとるべきだと考えるでしょう。時には、強制退去させ、滞納家賃を損切りするという選択もでてくるかもしれませんが、夜逃げよりはマシなはず。たとえ裁判をして勝訴したとしても、破産されれば請求自体がなかったことになってしまうわけですから、家賃滞納が始まり怪しいと感じたら、早々に対応することが夜逃げを避ける唯一の手なのかもしれません。

大家さんにとって恐ろしい夜逃げ。そんな経験をする大家さんが少なくなることを願っています。

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