【連載】死亡事故の影響を最小化! 事故告知ガイドラインのポイントと活用事例

  • 2021/12/14
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2021年10月8日、国交省より『宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン』が公表されました。

本ガイドラインは、今まで明確になっていなかった「人の死に関する告知義務」について取り扱ったものとなっており、このガイドラインによって、告知が必要となる事案と不要となる事案とを線引きする明確な基準が設けられたことになります。

 

告知が不要となる要件とは

賃貸取引において、本ガイドラインが「告知不要」とした要件は次の3つです。

  • 対象不動産で発生した自然死・日常生活の中での不慮の死で、特殊清掃が不要の場合
  • ①以外の死や特殊清掃が行なわれた事案であっても、発生場所が日常生活において通常使用することのない集合住宅の共用部分や隣接住戸等であった場合
  • ①以外の死や特殊清掃が行なわれた事案であっても、事案発生から概ね3年間経過した場合

これまでは「告知すべきか否か」の基準が定められていなかったことから、死亡事故が発生した場合には、後々のトラブルを回避するためにもその事故の種類にかかわらず、告知をして次の入居者を募集することが一般的でした。

しかしご存じの通り、事故物件として募集することはリーシングにおいて大きな足かせです。通常の適正賃料で成約することは困難となり、空室期間は長引く傾向にあります。

実際に弊社の管理物件で起こった事例を調べてみました。昨年は室内での死亡事故が11件発生しましたが、これらの部屋の成約データを集計したところ、成約賃料は平均して23%減、平均の空室日数は131日という結果でした。言い換えれば、これは「賃料を2割下げて募集したにもかかわらず、4ヶ月以上空室になってしまった」ということであり、いかに事故のダメージが大きいかが分かります。

ですが今後は、①~③のいずれかの条件を満たす死亡事故に限っては、募集時の告知が不要となります。オーナーにとって非常に有益なガイドラインといえるでしょう。

 

告知不要でも、デメリットを押さえた募集戦略が必要

ただし、このガイドラインもメリットばかりというわけではなく、いくつかの注意を要する点・デメリットが存在します。

1つ目は、賃料下落分の損害金の回収についてです。

これまでは、死亡事故が発生した場合、通常の賃料での募集が困難となるため、一定期間の賃料減額分を「損害金」として遺族(相続人)に請求するケースがありました。しかし、告知義務の基準が明確化したことで、告知不要となる事案については、遺族に対して損害金を請求することは難しくなってしまいます。理論上は告知不要=賃料減額も不要、ではあるのですが、必ずしもそうできるとは限らないのが現実の市場です。

2つ目は、たとえ告知不要の要件に該当する事案であっても、借主から「事故がありましたか?」と問われた場合には答える必要があるということです。

ネットやSNS等の噂程度の情報をもとに、あるいは、何も情報がなくとも「念のため」と確認をされるケースはあるものです。その際には偽ることなく事実を答えなくてはなりません。思わぬところで成約の機会を逃す可能性はゼロではないのです。

死亡事故はオーナーにとって公開したくない情報ですが、この情報の氾濫する現代において、事故を隠し通すことが困難である点は押さえておく必要があるでしょう。

 

「3年間」の定期借家契約で損失を最小化

このガイドラインでもう1つ注目したいメリットは、死亡事故が発生した当初は告知が必要な事案でも、3年を経過すると次の募集時には告知が不要となる点です。

これは万が一の場合でも、今後の収益回復が見通せることになるため、オーナーにとっては心強い決定といえます。とはいえ、事故後に低い賃料で募集したタイミングでの入居者が、そこから何十年も住み続けてしまう可能性もあり、そうなると賃料を戻す機会がいつ訪れるか分からない状態に…、これではオーナーの不安は消えないでしょう。

そこでオススメしたいのが、定期借家契約の活用です。定期借家契約は、更新がなく契約期間満了とともに契約が終了するため、「安い賃料で長期間居座られる」という事態を避けるにはぴったりです。事故発生から3年以内(告知が必要な期間)の入居については定期借家契約で締結し、3年後に必然的に次の募集機会が到来するように契約期間をコントロールすれば、賃料減額分の損失を最小限に抑えることができるでしょう。

今回の決定は、事故物件のオーナーだけでなく、全てのオーナーにとって追い風です。今まで孤独死を恐れて敬遠していた高齢者も受け入れやすくなり、空室対策にも役立つでしょう。

死亡事故におけるリスクが低下した今、賃貸経営全体のリスクバランスを整理し、経営方針の見直しを検討してみてはいかがでしょうか。

 

筆者:(株)アートアベニュー内田

弊社は首都圏の賃貸物件約7000戸をオーナー様からお預かりし、不動産管理に経営者思考を取り入れた「プロパティ・マネジメント(不動産経営管理)」を行なっている不動産管理会社(PM会社)です。本連載では、PM会社ならではのノウハウ、業界のリアルな裏話などをご紹介していきます。

株式会社アートアベニュー
プロパティマネジメント(不動産経営管理)の草分け的存在として業界からも評価される不動産管理・コンサルティング会社。日常の経営管理業務のみならず、オーナーの投資目標に合わせた売買・組替相談、不動産財務分析、建築企画、相続支援等もおこなう。代表の藤澤雅義氏は、日本でのCPM®(米国不動産経営管理士)を認定するIREM JAPANの2003年度会長。
http://www.artavenue.co.jp/

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