【連載】データから見るトレンド変化。アフターコロナの入居者ニーズを空室対策に役立てるために

  • 2020/11/12
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アートアベニューの伊藤と申します。弊社は首都圏の賃貸物件約6800戸をオーナー様からお預かりし、不動産管理に経営者思考を取り入れた「プロパティ・マネジメント(不動産経営管理)」を行なっている不動産管理会社(PM会社)です。本連載では、PM会社ならではのノウハウ、業界のリアルな裏話などをご紹介していきます。

緊急事態宣言が全面解除されてから、早いもので5ヶ月が経過しました。
先行きが見えず、次の対策が打ちにくい状況ですが、コロナが賃貸市況にあたえた影響を再確認するとともに、アフターコロナの空室対策について考えてみましょう。

5月以降東京都人口が減少・外国人の帰国が原因か

表1は、東京都が公表している住民基本台帳の数値をグラフ化したものです。

[表1]

緊急事態宣言発令後の5月1日時点と9月1日時点とで日本人と外国人の人口数を比べると、日本人はどちらも約1332万人で変わらない一方、外国人は約57万人から55万人へ、たった4ヶ月間で2万人も減少していることが分かります(よく見るとクルーズ船が話題になった2月から既に減り始めています)。

この傾向は弊社の管理物件も例外ではなく、コロナ騒動が始まって以降、外国人入居者の退去は前年比1.4倍のペースで発生しています。退去の理由・原因は、約40%が帰国もしくは一時帰国。中には戻ってくるつもりだった方もいたと思いますが、外国人は入国規制の影響で、一度帰国してしまうと簡単には日本へ戻ってこられなかったのです。そのため、外国人入居者で稼働を支えていた物件は、いま大きな打撃を受けている状態です。

また、外国人減少以外に、リモートワークの流行による社会人の転勤減少が、現在の空室募集を苦戦させるもう一つの原因になっています。ある大手社宅代行会社によれば、今年の法人の転勤数は「例年の4割減」とも。特に9月・10月は法人による転勤需要が高まる時期だけに、秋の募集に対する影響は大きいものでした。

在宅時間の増加で、住まいに快適性を求める傾向

アフターコロナの賃貸市況において、増えていると感じるのが「新しい価値観」に伴う引っ越しニーズです。

リクルート住まいカンパニー社が住宅購入・建築検討者向けに実施した調査では、「コロナ拡大によって変化した住宅に求める条件」の質問に対し、仕事スペースの確保・部屋数・遮音性など、自宅の「快適性」や「仕事のしやすさ」を求める声が多く寄せられました(表2)。同様のニーズは賃貸住宅の住まい探しにも表れており、1LDKなどの広めの部屋へ住み替えて「快適に仕事をしたい」というニーズが増加。通勤通学の利便性よりも広さを求めるケースが増えています。

[表2]

「快適性」「仕事のしやすさ」を求める傾向は、2020年10月19日に発表された全国賃貸住宅新聞の「人気設備ランキング2020年版」からも見てとれます(表3)。

[表3]

従来の人気設備が高い順位を維持するなか、大きく順位を上げた設備のひとつが、初登場の「遮音性の高い窓」。元々遮音性を気にする声は多くありましたが、在宅時間の増加によって子供の声や仕事の声を気にする人が増えたことが影響しているのでしょう。確かに弊社管理物件でも、非常事態宣言の前後においては「騒音」に対する苦情の件数が例年の1.6倍にも増加しており、音対策は募集時・入居後ともに効果を発揮しそうです。なお、既存の窓の遮音性を高めたい場合には、内側にもう一つ窓を取り付けて、二重サッシにすることが有効です。

また、「快適性」ということでは「システムキッチン」も大きく順位を上げています。コロナの自粛生活によって急激に高まったのが自炊率。スーパーなどの店頭から「ホットケーキミックス」や「小麦粉」が消えたという報道を目にした方もいると思いますが、巣ごもり需要から料理をする方が急増しており、使い勝手の良いキッチンは募集時の差別化に貢献しています。

コロナによる在宅時間の増加により、賃貸住宅への要望が日に日にハイグレード化しているように感じます。あくまで予算との相談になりますが、アフターコロナの賃貸経営においては、“快適”な住空間の提供により一層配慮していく必要があるでしょう。人気設備を取り入れる以外にも、「仕事机を設置する」など、少しの工夫でニーズを捕まえられる可能性もあります。まだまだ出口の見えないコロナ禍、どの部分にコストをかけるべきか慎重に検討していきましょう。

株式会社アートアベニュー
プロパティマネジメント(不動産経営管理)の草分け的存在として業界からも評価される不動産管理・コンサルティング会社。日常の経営管理業務のみならず、オーナーの投資目標に合わせた売買・組替相談、不動産財務分析、建築企画、相続支援等もおこなう。代表の藤澤雅義氏は、日本でのCPM®(米国不動産経営管理士)を認定するIREM JAPANの2003年度会長。
http://www.artavenue.co.jp/

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