賃貸物件の「退去」における原状回復について、わかり易く解説 【2020年4月施行の民法改正に対応】

  • 2019/9/28
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賃貸物件にお住まいであれば、必ず問題になるのが「原状回復」です。人それぞれ契約内容も違いますし、部屋の状態も違います。不動産有限会社や家主さんによっても請求の仕方が違います。不動産賃貸会社の現役営業マンが、原状回復の仕組みについて教えます。

 

1.原状回復で揉める初歩的原因

退去後に行うのが原状回復です。ネットやテレビで「○○円の超高額請求!」、「○○は払わなくて良い!」と取り上げられているのを良く目にします。高額な金額を提示する不動産賃貸会社・業者や家主さんが実際にいることも確かです。しかし、通常の請求に対してもネットやテレビの情報に踊らされて「そんな不当請求は払いません!」と興奮気味に言われる入居者の方もいます

このような問題が起こる多くの原因が、契約者が入居当時のことを覚えていなかったり、自分の都合の良い様に記憶を変えていたりするケースです。

【実例1】 入居当時の交渉を覚えていない
新居を探しているAさん。初期費用にかかるお金の工面が厳しいため、入居の際に不動産賃貸会社Bを通して家主Cさんに「原状回復にかかる費用の預け入れを免除する代わりに、Aは退去時に清掃費用と、過失による汚損・破損の補修費用を出します。事情を考慮して、家賃も他の部屋より3,000円下げましょう。」と特別な状態で入居を開始しました。
そして数年後、当時の感謝をすっかり忘れ、「退去の費用は聞いていない。お金は払わない。」と捨てゼリフを残し、AとCは争うことになりました。

【実例2】 契約書にサインしたにも関わらず「騙された」と言い張る
Aさんはプラス料金でペットを飼える物件を契約しました。しかし、すぐには飼う予定がなかったために契約上は「ペット不可」とし、ペットを飼い始めた際に契約書の追記・訂正を行う旨の説明を不動産賃貸会社Bから説明を受けて入居を開始します。
数年後、契約書の追記・訂正を行うことなく退去を申し入れたAさん。退去後の部屋を不動産賃貸会社Bが見に行くと、壁クロスには猫による明らかな引っ掻きキズがありました。Aさんは「他の部屋も飼っているし、そもそもペット可の物件でしょ?」「契約時にそんな説明は聞いていない。営業担当に騙されてサインしてしまった。」と言い出す始末。そもそも契約違反ですのでキッチリお支払い頂きました。

 

2.意外と知らない原状回復の仕組み

不動産会社によって、家主さんによって、入居者との契約内容によって、部屋の状態によって100人いれば100通りの原状回復が存在すると言っても過言ではありません。円満に解決するのはそれほどに難しいのです。

不動産会社が関わるパターンは、大きく分けて2つです。

  1. 入居時に不動産賃貸会社が仲介、退去時も不動産会社が清算。
  2. 入居時に不動産賃貸会社が仲介、退去時は家主(または家主指定業者)が清算。

どちらの場合でも契約は原則「入居者と家主」の間で行われるものであり、不動産会社は家主さんを代弁して入居者に言っているに過ぎません。そこで「不当請求してきた不動産会社を訴えてやる!」と勘違いが生まれ易いのですが、際に裁判をする際は「入居者と家主」で行います
ここを理解しないことには始まりません。

例えば①の場合でも、原状回復の施工費用で得られる不動産会社の利益は雀の涙ほどしかありません。可能な限り安価で済ませ、穏便に終わらせたいというのが現役で働く不動産会社側の本音です。傍若無人な態度をとり不動産会社と敵対したところで何のメリットもありません。

 

3.不動産賃貸会社が入居時の仲介 → 不動産会社が原状回復

入居者が退去の届けを出し、入居者から鍵の返却を受け、施工業者と共に見積書を作成します。出来上がった見積書から入居者負担と家主負担に分け、原状回復の費用を両者に連絡します。両者の異議がない場合には実際の施工に入っていくのが原則です。例外として、次の入居者が決まっている場合には施工も同時進行で進めます。

負担割合で揉め、長引くことで次の入居希望者の入居日に間に合わない事態が発生すると、別な損害が争点になる可能性が出てきます。退去後の不動産会社からの連絡はできるだけ早く返す方が良いでしょう。

 

4.不動産賃貸会社が入居時の仲介 →退去時は家主(または家主指定業者)が清算

入居者が退去の届けを出し、入居者から鍵の返却を受け、家主さんが直接、または家主指定業者が見積書を作成します。入居者と家主さんが揉めないために仲介業者が存在しているのですが、真っ先に家主さんが見てしまうことで揉めやすくなる可能性があります。
更に、施行業者は施工した分を入居者と家主さんへ請求すれば良いので、「あれもこれも」と見積に入れる可能性があります。不動産会社が見積を作成する場合には、経年劣化や設備上の問題であるかを判断しながら算出しているので、大きな違いと言えます。

不動産会社がコントロールできないため、見積書が出来上がるまでの時間にバラつきがあります。退去後から数ヵ月後、忘れた頃に見積書が届き「○○円を前入居者に請求して欲しい」と連絡があることもあります。

 

5.契約時の特約条項を確認

退去前には契約時の特約条項などを確認しましょう。著しく公平さを欠く場合以外は特約条項が優先されます契約は個人の自由とするのが原則であり、契約当時はその内容でお互いが了承していた訳ですから当然です。法改正があったとしても、原則的には改正された法よりも、特約条項が優先されます

口約束であって、特約条項に入っていない場合、例えば「清掃費は家主負担で構わないよ」と言われていたとしたらどうでしょう。契約は個人の自由ですのでお互いが了承していれば有効です。

しかし、相手が認めてくれれば良いですが「言った」「言ってない」の問題ですので、当時を証明するものがなければ一般的な慣習や法律を適用するしかありません。高齢の家主さんであれば世代交代をしている可能性もあります。

 

5.民法改正2020年4月施工の内容とは?

今回は、3つを例に挙げて説明します。

民法 第601条
【改正前】
賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。
【改正後】
賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うこと及び引渡しを受けた物を契約が終了したときに返還することを約することによって、その効力を生ずる

「借りたものを返す」という当たり前のことですが、これまで明記されていませんでした。要するに、部屋を返還するまでが賃貸借であるということです。

民法 607条の2
【新設】
賃借物の修繕が必要である場合において、次に掲げるときは、賃借人は、その修繕をすることができる。
一 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき
二 急迫の事情があるとき。

建物上の問題、および室内の設備上の問題は貸主である家主さんが修繕する義務を負います。家賃を払って借りている以上、家賃分の機能を果たさなければいけません。
家主さんが修繕を行ってくれない場合に、借りている側が修繕を行い、家主さんに請求できることが明文化されます。

民法 第622条の2
【新設】
賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない
一 賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき。
二 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。

問題になり易い「敷金」ですが、実は今まで法で定められていませんでした。法改正によって明文化されることになります。
契約書にかかる覚書、特約条項、重要事項説明に記載されているものは、それらを加味して民法やガイドラインなどと照らし合わせ算出して返金します。記載がない場合は民法やガイドラインなどに基づき算出して返金します。

 

6.まとめ

貸主である家主さんが「売却」や「相続」などによって替わる、いわゆるオーナーチェンジは借りる側にとってリスクとなります。また、オーナーチェンジとともに、家主さんから指定の不動産会社管理会社が変更になることもあります。リスクを回避する術は約束事を契約書にしっかりと明記してもらうことです。

民法改正については、実際に改正された後に様々な判例が新たに出ることでしょう。これからの変化に注目が集まりそうです。

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