【連載】予見できる災害だからこそ。賃貸経営の視点から見る台風対策
株式会社アートアベニューの福原と申します。弊社は首都圏の賃貸物件(約6,700戸)をオーナーさまからお預かりし、不動産管理に経営者思考を取り入れた「プロパティ・マネジメント(不動産経営管理)」を行なっている不動産管理会社(PM会社)です。
本連載では、PM会社ならではのノウハウ、業界のリアルな裏話などをご紹介していきます。
2019年秋、台風15号と19号が相次いで日本に上陸し、各地で大きな被害をもたらしました。気象庁発表のデータを見てみると、1981年から2015年までの35年間における台風の年間平均上陸数は2.77。一方、2016年からの4年間の平均上陸数は5.0と発生件数はほぼ変わらない中で、上陸数だけが増加しています。これも近年よく聞く気候変動の影響でしょうか。
そこで今回は、賃貸経営における台風への備えについてお伝えします。
便利なWebサービスで危険を調査
台風対策においてまず大切なのは、所有する賃貸物件にどのような危険があるかを知ることです。
各自治体のハザードマップを確認することはもちろんですが、『今昔マップon the web』といったWebサイトも調査に役立ちます。
こちらは埼玉大学の教授が開発したサイトで、全国37地域における昔の地図と現在の地図をひとつの画面で見比べることができます。
2つの地図を比較することで、昔は水路だったものが現在は地下水路になっているような場所が一目瞭然に。台風の大雨で水があふれないか、といった予測の参考になります。
また、『地理院地図』も便利なサイトです。
こちらは国土地理院が日本の国土についてまとめたウェブ地図で、その土地の成り立ちや自然災害リスク(河川氾濫、土砂災害、地震の際の揺れ方など)を知ることができます。
こうしたツールで災害リスクが把握できれば、台風対策としてどのような保険に加入するべきかも検討できます。
物件が洪水や高潮、土砂崩れ等の水害リスクのあるエリアにある場合は、火災保険の基本補償に加えて「水災」の特約を付けるべきでしょうし、逆に物件が高台にあって水害リスクがほとんどないと分かれば、水災特約を外して保険料を抑えるといった選択もできます。
何となくすすめられた保険を契約している場合、補償の範囲が物件に適しているか、余計な特約で高い保険料を払ってしまっていないか、といったことを物件の災害リスクとあわせて一度確認してみることをおすすめします。
台風接近前に確認しておきたいポイント
どんな災害であれ、被害の明暗を分けるのは事前準備です。
強い台風の接近時に大家や管理会社が確認しておきたいポイントを、以下にまとめました。
ポイントを確認した上で問題が発見された場合には、きちんと対策を打つ必要があります。
そしてもちろん、台風が通り過ぎた後での被害状況の確認も必要不可欠。当社でも今年の台風の後は社員総出で物件を巡回し、被害状況の迅速な把握に努めました。
入居者のフォローも大家や管理会社の役目
賃貸経営をする上では、お客様である入居者への災害フォローも重要です。
物件に災害リスクがある場合には、入居のしおり等でハザードマップや地域の避難所などの情報を提供しておくと親切でしょう。
また、更新時に防災グッズ(カセットコンロ、懐中電灯、ラジオ、非常食・水など)をプレゼントするという対策もできます。これには、防災に加えてテナントリテンション(入居満足度向上)の効果も期待できます。
実際に台風が直撃しそうなときには、ショートメールやEメールなどで緊急連絡先の通知、過ごし方の注意喚起等を行うことも大切です。
飛来物に備えて雨戸があれば閉め、なければカーテンだけでも閉めてもらえると入居者がケガをする可能性が低くなります。停電による断水対策として、生活用水をバスタブにためておくようアドバイスすることも有効でしょう。
当社では、大きな台風が上陸する際は前日に全ての入居者へ注意喚起のショートメールを送信しています。
災害時の対応が管理会社選びのポイントになる
物件管理を管理会社に任せる場合には、以下のような災害時の体制も確認しておきたいところです。
- 入居者からの連絡を24時間体制で受け付けることができるか
- 災害前後の現地確認の体制が整っているか
- 事故があった際にスムーズな対応ができるか
何かあったときにこそ、管理会社の真価が問われます。
管理会社選びは管理料の安さなどの表面的な部分だけではなく、いざというときにどう動いてくれるかにも注目しましょう。
まとめ
地震や火災と違い、台風は事前に発生が予見できる災害です。発生する前から備えられることや、直前に備えられることを整理し、実際に被害が発生した際にも慌てることなく、適切に対処できる体制をとっておきたいですね。
株式会社アートアベニュー
プロパティマネジメント(不動産経営管理)の草分け的存在として業界からも評価される不動産管理・コンサルティング会社。日常の経営管理業務のみならず、オーナーの投資目標に合わせた売買・組替相談、不動産財務分析、建築企画、相続支援等もおこなう。代表の藤澤雅義氏は、日本でのCPM®(米国不動産経営管理士)を認定するIREM JAPANの2003年度会長。
http://www.artavenue.co.jp/