法律とは国民の生活や環境、問題に合わせて少しずつ姿を変えていきます。時間がたつとルールと人の生活が乖離してしまうので、ルールが人の生活に合わせているのです。
そして、このたび大きく見直したのは「相続税」。離婚や再婚、子供とも関係性、高齢化社会……40年前と比べて複雑化していますね。同じように相続税トラブルも複雑になってきていますね。そのため相続税が40年ぶりに大きく変わるのです。
今回の改正で相続金額の変化もありますが、家に住み続けられる居住権も関わってきます。
いざというときには、私たちの生活にも影響してきますね。詳しく見ていきましょう!
相続税の4つの改正点
相続税はほとんどの方に降りかかる問題であり、これからの生活にも影響してくるものです。
これまでの相続税は、どちらかというとお金に着目されてルールが決められていました。人同士の関係性も相続金額のパーセンテージでしか見られませんでした。
また、相続が完了するまでは被相続人(亡くなった人)の財産には手を付けるべきではありませんでした。しかし、必ずしも親族が裕福な暮らしをしているとはかぎりませんね。もしかしたら、被相続人から援助を受けて生活をしていた可能性もあります。
このような生活環境の変化、生活レベルの変化が著しいことから、今回の法制改正へと至りました。
このたびの改正した点は、
- 配偶者居住権の創設
- 自筆証書遺言に添付する財産目録の作成がパソコンで可能になった
- 法務局で自筆証書による遺言書が保管が可能になった
- 不動産の生前贈与が相続財産外になった
- 遺産分割前でも一定額の遺産の払い戻しが認められた
- 被相続人の介護や看病で貢献した親族は金銭要求が可能になった
以上の4点です。
改正点①妻・夫が住み続けられる「配偶者居住権」の創設
建物の所有者である被相続人が亡くなったあとの、被相続人の配偶者を保護するための制度。
「戸建てに住んでいたが相続がうまくいかず手放すしかない……子供に転校を強いることはしたくないけれど、まわりの家賃相場は高くて住めそうにない……」
相続税を払うとこれからの生活に支障が出る。相続することができず、住み慣れた家を手放す事例が相次いでいることから創設されました。
とくに働き手である父親が亡くなった場合は、自宅を失うことは子供にいらぬ負担をかけることになりますね。住み続ける権利が認められることは将来の安定にも繋がります。
この居住権には2つの種類があるので注意しましょう。
- 配偶者短期居住権
- 配偶者居住権
【配偶者短期居住権】
相続の開始時に、被相続人所有の不動産に無償で住んでいた場合は、6ヶ月~一定期間において引き続き無償で住み続けることができます。少なくとも遺産分割が終わるまでは住み続けることができるようになりました。
所有者が亡くなったからすぐに出ていけ!では困窮するため、配偶者の当然の権利としてこのたび明文化された形です。遺言書などがなくても配偶者ならば受けることができます。
ポイントは、
- 被相続人所有の不動産であり、
- 相続開始時に
- 無償で住んでいた この3つです。
もし、建物の一部に無償で住んでいた場合は、その無償の部分においてだけ認められます。
【配偶者居住権】
引き続き住み続けられるのは短期と同じですが、こちらは遺言や遺産分割協議など、特別な手続きが必要です。
短期よりも効力が強く、配偶者は終身、該当する不動産に住み続けることが可能。ただし、遺産分割協議により居住期間を設けた場合は例外です。
ポイントは、
- 被相続人所有の不動産であり、
- 相続開始時に
- 住んでいた この3つです。
期間がなく住み続けられるので、子供がいれば転校させることもありませんね。
配偶者の居住権の新設:2020年4月1日~ |
画像出典:政府広報オンライン 約40年ぶりに変わる“相続法”!相続の何が、どう変わる?
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201809/1.htm
改正点②自筆証書遺言に添付する財産目録はパソコンOK!
いままでの遺言書の作成は大変なものでした。遺言書から目録(財産のリスト)まで、すべて手書きで、自分で書かなければならなかったのです。
民法改正により、目録(財産のリスト)はパソコンでの作成が認められるようになりました。
さすがに遺言書部分は手書きでないとダメですが、目録だけでもパソコンで作れるようになるのはありがたいですね。
パソコンで作った目録以外に、通帳のコピーなどの書面も添付しておきましょう。
自筆証書遺言の方式の緩和:2019年1月13日~ |
画像出典:政府広報オンライン 約40年ぶりに変わる“相続法”!相続の何が、どう変わる?
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201809/1.htm
改正点③法務局で自筆証書遺言書が保管可能に
遺言書の保管はいくつか方法がありますが、一番手軽なのは自宅で保管をすることです。
しかし、家族が中身をこっそりと盗み見て自分たちに有利な内容に書き換えたり、しまい込んで紛失するリスクもありました。
こうしたことは、いらぬトラブルを招く原因にもなりますね。
今回の改正では、自筆証書(被相続人が自分で執筆した遺言書)を法務局で保管できるようになりました。書き換えや紛失のリスクがない空間で保管することで、相続がスムーズにおこなわれるようになります。
自筆証書遺言の法務局での保管制度:2020年7月10日~ |
画像出典:政府広報オンライン 約40年ぶりに変わる“相続法”!相続の何が、どう変わる?
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201809/1.htm
改正点④自宅は別!家の生前贈与が特別受益の対象外になる
法定相続人の中には、被相続人(亡くなった人)からすでに生前贈与を受けているケースがあります。
一例として上げられるのは、資産価値の高い不動産を買い与えられたり、大学などの費用負担を肩代わりしてもらったなどです。
改正前は生きているうちの贈与でも遺産の受け渡しとして扱われ、被相続者の死後の相続において受け取れる総額を不動産分、減額されていました。
下の画像の改正前を見てみましょう。配偶者である妻は夫が生きているうちに2,000万円の住居を贈与されました。夫が亡くなり、妻が受け取れる相続の総額は4,000万円です。しかし、すでに2,000万円の住居を受け取っているため、4,000万円もうち半分は不動産で埋まり、残りの2,000万円を預金で受け取りました。
たとえば、自宅の評価額が高かった場合を考えてみましょう。
妻が受け取れる相続の総額は4,000万円。住居の評価額が思いのほか高く3,000万円になったとすると、
相続可能枠4,000万円ー住居3,000万円=1,000万円
預金で受け取れるのは1,000万円しかありません。これでは老後が不安です。
今回の改正ではこのようなことがないように、結婚期間が20年以上の夫婦において住居が生前贈与された場合は、相続財産とはしないことになりました。遺産扱いしないため、先ほどの4,000万円の枠はまるまる預金で受け取れます。結果的に不動産とその他財産を受け取れるため金額が上がりました。
これは、被相続人の死後に配偶者が困窮しないようようにするための措置。
生前贈与を受けても相続財産とはみなさないことは、生前贈与を受けた人にとってはラッキーであり、受けてない人は恩恵を受けられません。生前贈与の前に他の法定相続人と話し合いを行うことが無難です。
画像出典:政府広報オンライン 約40年ぶりに変わる“相続法”!相続の何が、どう変わる?
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201809/1.html
改正点⑤葬儀代の捻出…相続前に被相続人名義の預貯金が一部払い戻し可能になる
葬儀にいくらかかるかはご存知ですか?全国平均は135万円。
経営者や役員など規模の大きい葬儀から、葬儀はおこなわず火葬場に直行する方も一緒くたにしての全国平均です。
家族葬のこじんまりとしたものにすればいいでしょう?と思いますか?ところがどっこい、家族葬も100万円はあっという間です。
そして、葬儀費用は遺族にとって鬼門。なぜならば「これくらいの予算でやって欲しい」と葬儀会社に依頼をしても供物や花代は予算外です。そのため予算を大きく超えて、親族間のトラブルに発展します。
改正前はいくら費用がかかりすぎていても、相続前の遺産は払い戻しができませんでした。遺産分割が済む前に使い込む親族が稀にいたからです。
しかし、このたびの改正では遺産分割が終わっていなくても預貯金債権のうちから一定額において払い戻しができるようになりました。これは家庭裁判所などの判断は必要ありません。金融機関でおこなえます。
遺産分割前の預貯金の払い戻し:2019年7月1日~ |
改正点⑥泣き寝入りはしない!相続人の介護・看病に貢献した親族は金銭請求が可能に
1994年。とあるドラマで有名なセリフが誕生しました。
「同情するなら金をくれ!」
かわいそう。大変だったね、といういたわりの心は大切ですが、それだけでは解決しない問題はたくさんあります。
たとえば、相続人でもないのに介護をせざる負えない人。
義理の親の介護を一身に引き受けたにも関わらず、改正前は一銭も相続で受け取ることはできませんでした。それなのに、遠くに住んでいて年に1、2回会えばいいような子供に相続がガッポリと入るとなると面白くありませんね。
今回の改正では、相続人外でも介護や看病に貢献した親族は金銭請求が認められるようになりました。
画像出典:政府広報オンライン 約40年ぶりに変わる“相続法”!相続の何が、どう変わる?
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/201809/1.html
40年ぶりの大改正はいつから?
2019年1月13日から段階的に施行されます。
自筆証書遺言の方式の緩和 | 2019年1月13日~ |
遺産分割前の預貯金の払い戻し | 2019年7月1日~ |
配偶者の居住権の新設 | 2020年4月1日~ |
自筆証書遺言の法務局での保管制度 | 2020年7月10日~ |
まとめ
相続税の改正について解説いたしました。
改正ポイントとしては、
- 配偶者居住権の創設
- 自筆証書遺言に添付する財産目録の作成がパソコンで可能になった
- 法務局で自筆証書による遺言書が保管が可能になった
- 不動産の生前贈与が相続財産外になった
- 遺産分割前でも一定額の遺産の払い戻しが認められた
- 被相続人の介護や看病で貢献した親族は金銭要求が可能になった
以上の6点です。
相続税は誰しもが迎えることです。しかし、下手をするとこれからの生活にも支障をきたします。相続税を正しく理解をし、いざという時のために備えておきましょう。