タウンマネジメントの時代へ 賃貸経営マイスター藤澤雅義氏の提言
- 2018/11/15
- その他
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人口減少が見込まれる日本で、これから不動産投資を行うにはどのような発想が必要か。
CPM(米国不動産経営管理士)、CCIM(米国不動産投資アドバイザー)であり、オーナーズエージェント株式会社と株式会社アートアベニューの経営者でもある藤澤雅義氏に、これからの不動産投資に欠かせなくなってくる考え方を聞きました。
はたして30年ローンでアパートを建てていいのか?
人口減というまったく洒落にならない現実があります。日本の人口は20年後に12%減り、30年後には約2割、40年後には3割減るそうです。日本の人口はざっくりいうと、ここ100年強で3倍になりました(その前の江戸時代はずっと3000万人くらい)。そして、今から100年間、逆に同じ速度で減っていって3分の1になっていくのです(図・内閣府発表)。
また、賃貸住宅経営において、大家がターゲットにしている若い世代の割合も減少します(図2参照・内閣府発表)。
まわりを見渡しても、結婚しない人、また、結婚を焦っていない人が昔の20代の頃より格段に増えています。政府も少子化対策に努力していると思いますが、急に出生率が上がるとは思えません。また、移民政策も現実的にはなかなか難しい面があります。そのため、日本の人口減は現実のものとなる可能性が高いのです。
20年後に人口が12%減るということは、このままのペースでアパートを作っていったら、単純計算で12%空室率が上がるということです。つまり、波綻する大家さんが続出することになります。人口減を迎えて、同じペースでアパートは作ってはいかないとは思いますが、逆に古いアパートをリノベーションする動きは今後加速しますので、供給量は案外減らないと予想できます。
つまり、「今から30年ローンで新築アパートを建てていいのか?」という根源的な問題に直面しているのです。今後は、厳しい安全率(収入と返済とのバランス)でみないと投資が失敗する可能性が高いでしょう。
そして、今後は「投資しても大丈夫なエリア(街)」と「投資すると失敗してしまうエリア」に明確に分かれるでしょう。全国どこでも平均的に人口が減るわけではありません。人気のエリアと不人気のエリアに分かれるのです。また、それは、「東京なら大丈夫)、「地方だからダメ)というような単純なものでもないのです。
良いアパートだけでなく良い街を作る
いままでは、「入居者に支持される良いアパート・マンションをどう作ろうか」と苦心してきた。また、稼働率の悪い物件の稼働率をどう上げるか、その空室対策に取り組んできました。しかし、そのエリアそのものの人気が下がっているのであれば、どうしようもありません。
そのエリアの人口が減っていくようでは、アパート経営は成立し得ません。今後、私たちは、特定の物件の空室対策を考えるのではなく、そのエリア全体のことを考えなければいけない時代になっているのです。その街全体の価値を上げ、子供を産む若い世代が集まってくるようにしなくてはならないのです。
米国では、「街づくりはアセットマネジメントである」と言われています。街づくりは不動産オーナーが稼ぐ、稼がせることをベースに展開するという概念があります。街が活性化すれば、自然と不動産オーナーの賃貸料が上がり、不動産そのものの価値が上がっていくという考え方。賃貸管理業者は、不動産オーナーの所有物件の経営に携わってきましたが、今後はそのエリア、つまり街全体のことに心を砕くときが来たのではないでしょうか。
つまり、それは「タウン・マネジメント(TM)」です。「プロパティ・マネジメントからタウン・マネジメントに進化」する時がきたのです。
プロパティ・マネジメントからタウン・マネジメントへ
具体的には、エリア内で景観を守るために建築協定を締結する、建物の高さをあわせ道路境界上の塀を規制する、ケバケバしい看板を排しその形状と色を規制するなどです。
日本にはやたらに看板が多すぎます。見苦しい電柱の地中埋設を推進し、放置されたボロ空き家を無くす。景観は重要です。住宅街に突然、貨物列車のコンテナが銀色の光を放って現れることがあります。貸し収納ということで確かに需要もあるようですが、街並みを壊してはいなでしょうか。原色塗装の自動販売機が、そこかしこにあるのも景観を損なっていると思います。
また、若者が集まる人気のショップやレストランを誘致すべきです。「売り」になるものを明確にして、マーケティング活動を行うべきです。売りは、「名産品」であることもあるし、「文化」や「アート」であることもあるでしょう。既存の図書館や公共施設はリノベーションします。住民のコミュニティの場を多くつくる。「名産品」をひとつでも多く供給することによって外貨を獲得することができます。
できれば、ナショナルチェーンの店に安易に頼らないで、その地域ならではのオリジナル色あるお店を作れれば最高です。ナショナルチェーンも新たな雇用が生まれるという点では素晴らしいのですが、収益はすべて本部に持っていかれます。そのエリアで生産された商品であったり、そのエリアの人が行うサービスが売り物であったりするのなら、収益はそのエリアに落とされることになるので、より多くの雇用が生まれます。
タウン・マネジメントとは稼ぐ街をつくること
タウン・マネジメントとは、言葉を変えれば、「稼ぐ街を作る」ということにほかなりません。稼ぐことができなければ雇用が生まれませんし、雇用がなければ、人は移住してきません。
でも、そこで生まれ育った人は、進学や就職でいったんは都会に出たとしても故郷を愛してはいるし、親のこともあるので、できればUターンしたいと思っている人が少なからずいます。しかし、故郷には雇用がない。また、文化やセンスの部分でいまひとつであれば、戻ってこないのです。
また、地域が魅力的であれば、たとえその地域に縁がない人であっても、Ⅰターン者もでてきます。そして、「よそ者」が、地元の人では気付かない何かを見つけてくれることもあります。
昨今のITの進化によって、どこでも仕事ができるようになってきました。ということは、これからは、本社からの、また顧客からの距離や場所が問題ではなく、住んでいるところに魅力があるかどうかが重要になってくるのです。
観光とのコラボで外国人を呼び込む
「稼ぐ街」になるためには、観光とのコラボが大事だと考えます。今後、「観光」というのは世界的にみて、繁栄、発展が約束されている市場。「うちの街には目玉になるような観光施設はない」というかもしれませんが、何か日本人や外国人に「体験」をさせるようなソフトコンテンツがあればいいのではないでしょうか。
デービット・アトキンソン氏によれば、日本には8200万人の訪日外国人を呼び寄せる力があるといいます。近年は訪日外国人数が大きく伸びていますが、まだ伸びしろはあるのです。やり方次第で、外貨を稼ぐ街にできるのです。
特に、訪日外国人のうち、欧米人、オーストラリア人が一人あたりの観光での消費額が多くあります。また、爆買いをしていた中国人も、日本文化を体験したがる傾向が顕著になっています。だから、景勝地がなくても大丈夫。なにか日本を感じさせるアクティビティを作り、インバウンド集客を考えていきましょう。
大家は自分の物件だけでなく、魅力ある街づくりを
人口減は、間違いなくやってきます。経済規模はこのままでいくと縮小するでしょう。それを、手をこまねいていてはいけません。政府は2020年の東京オリンピックの年に、2015年実績の倍増の4000万人、そして2030年には6000万人の訪日外国人を呼ぼうとしています(図)。
日本は観光立国の4条件と言われる「自然」「気候」「文化」「食事」のすべてが備わった、実は観光大国になれる潜在的な能力が高い国です。これからは、観光で勝負するしかないのです。
いまや大家さんたちは、自分の物件のことだけを考えている場合ではありません。大家さんたちが連携して、地域の他業種の経営者、行政等と、また賃貸管理会社とよく協議して、魅力ある街づくりを目指すべき時がきているのです。
*本コラムは、2016年10月15日配信の満室経営新聞から抜粋・加筆・修正したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。