全空物件を満室にしてきた寺尾が本音で語る不動産賃貸経営。かぼちゃの馬車問題は必然だった!
- 2020/2/28
- 不動産投資
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すでに不動産投資をしている方の中には、空室が埋まらずに苦労されている方もいらっしゃると思います。「こんなはずではなかった」と嘆く前に、オーナーさんができることはたくさんあるはず。
今回は全室物件を購入し満室にした当メディア編集長、寺尾にその秘訣と、不動産経営について話してもらいました。
(ライターによるインタビューのため、さん付けになっていることをご理解ください)
31部屋全空物件を満室に。何よりも大切なのは、賃貸経営を軽視しない姿勢
――今回は、不動産投資用物件を購入したものの、うまく部屋を埋められず苦労している方に対して、どのような施策を取るべきなのかをお伺いしたいと思っています。寺尾さんは全ての部屋が空室の物件を満室にした実績があるそうですが、どれぐらいの規模の物件だったのでしょうか?
すべて空室だった物件は神奈川西部にあるアパートで31部屋ですね。今でも持っていて順調に経営を続けています。他にも、10年ぐらい前に購入した金沢の物件は、15部屋ぐらいが空室でした。ボクにとっては、空き室が多い物件はむしろチャンスだと思っています。
――面白いですね。今回はまさにそれらのことについてお話しいただきたいのですが、なぜ空室に悩むオーナーさんが多いのでしょうか?
ボクはいろいろな物件を購入してきましたけど、本当に重要なのは購入することじゃなくて経営にあると思っています。賃貸経営をおろそかにしてはいけないんですよね。
でも、みんな賃貸経営は嫌いだし、自分にはできないと思っている。なんとか買って終わりにしたいと考えています。物件を販売する側もそれを理解しているから、「経営はしなくていいですよ」と言って物件を売るんです。「家賃の入金を待つだけです」とか、「ほったらかしでいいです」とかね。「全室借り上げます」「家賃保証します」と言われると、それならうまくいくに違いないと思ってしまうわけで、その典型が、かぼちゃの馬車ですよね。
――そういえば、かぼちゃの馬車問題でオーナーとなったのは、不動産オーナーではなく、一般的にエリートと言われるサラリーマンでしたよね。
そうなんです。不動産業界って、すごく不思議な業界です。本当に、「経営はやらなくていいよ」って言うんです。でも、実際にはそんなわけはないんですね。
いろんな会社がフランチャイズを募っていますが、「やらなくていいです」って言うところなんてひとつもないんです。例えば、ラーメン屋さんの加盟店になるとします。「ラーメンは作らなくて大丈夫です。全部こちらがやります。売上保証もします。あなたはお店を建てて、厨房器具を買ってくれるだけでいいです」と言われたようなものです。でも、お店が立ち行かなくなると、「売り上げが思ったより少ないので、売上補償を減らします」と言われるんですね。これは不動産経営で言えばサブリースの話と同じ。
また、最終的には「加盟店契約を解約します」と言われます。そうすると、無人のラーメン屋さんだけが残るのと同じですよね。しかも、そのお店には多額のローンがあるわけで、こんな業界ってないです。そこから自力でどうかしようとしても、何もできないですよね。
最近、悪名高いセブンイレブンは、「24時間働け!」っていうわけじゃないですか。休みもなく。これは極端な例ですけど、でも経営ってそういうものだと思うんです。不動産業界は異色すぎます。
経営の大切さを知れば、上位1割の稼げる大家に近づける
――なぜ、働かなくてよいと言われるのでしょうか?
アパートを建てる資金があっても、賃貸経営ができる人はそんなに多くないから、サービスが過剰になったのかもしれないですね。そう言うと物件契約が取りやすくなるからと、だんだん作られた土壌だと思います。
おかしな世界ですよね。運転免許を取る前に車の買い方を一生懸命勉強するようなもの。この車のエンジンの馬力はどうとか、トルクがどうとか、加速がどうとかのスペックについてはめちゃくちゃ詳しくなる。けれども、実はまともに運転ができない。そんな人が免許運転もなく公道を走っているわけですから、当然うまくいかなくて、事故も増えるんですよね。
――学科試験だけ勉強して、運転できる気になってしまっているという感じですね。
そうなんですよね。それで車を適当に動かしてみたらぶつけてしまって、結果的に、「車はよくないですね」って言うわけです。
だから、不動産投資をやりたい人には、まず賃貸経営が大事だと言うことを知っていただきたい。これができている人は10%ほどしかいいないんじゃないですかね。どうやるかというテクニックは無限にあるんですけど、まずは、賃貸経営が大切であることを知れば、上位1割の成功できる大家さんの仲間入りができる可能性がグッと高まるということです。
――1割とは、かなり少ないですね。
リーマンショックの後ぐらいの風潮としては、サラリーマンの方でも、わりとパリッとした築浅のRC物件とか新築アパートなどを買うことが増えてきました。それ以前、ボクが始めた15年前とかに比べると、そういう物件を買いやすい環境があったんですよ。でも、そのせいで賃貸経営の重要性が軽視されてきたんですね。
ボクがやり始めた頃って、最初に買うのは中古アパートだったし、それが王道でした。なので、ちゃんと賃貸経営をやらないと立ち行かない。これはすごくがんばって入居付けしないと死ぬな、破産するなって覚悟があった。その意気込みを、最初から強制的に持たされていた感じです。
そのお陰で、その後に半分空きとか全空物件を回してきたっていうことなんです。
賃貸経営に自信ない人は新築で買う人が多いし、うちも新築倶楽部をやっているので否定はしないですけど、「新築物件を買ったから、賃貸経営をしなくていい」ってことにはならないですよね。
――なんだか最初からめちゃめちゃ深い話ですね。
そうなんですよ。ただ、満室経営のことをセミナーとか話すと、かなり人気がないんですよね(笑
でも、空室を埋める賃貸経営をするためのノウハウが増えると、買える物件が増えるのに・・・。ボクが個人的に、不動産を買ったことがない人だけに限定してやっている『チャレンジ面談』っていうのがあるんですけど、その中で、「買いたいけど買えない」という人ってすごく多いんですよ。その理由は、家賃が下がりそうだとか、周りにライバルが多いとか、田舎だから賃貸需要がヤバイとか、都会なら都会で競合物件がいっぱいいるとか・・・。
でも、結局のところ、なぜ買えないのかと言うと、究極的には賃貸経営への自信のなさなんですよね。そもそも賃貸経営を軽視して、いろいろなことをやろうとしないから買えないのであって、ここを変えると一気に可能性が広がりますよ。
全空物件ができる裏には、さまざまな事情がある
――ところで、全空物件ってなぜ発生するのですか?
理由は何パターンかあるんですけど、多いのは某社の物件ですね。大家さんは建物を建てて、家賃保証を受けて、経営を任せているんですよね。で、いろいろあって家賃が減額されたり、トラブルがあって家賃補償を打ち切られたりすることがあるんです。そうなると某社では、打ち切ったマンションの入居者を管理する別の物件に引越しさせようとするわけですよ。「新しい物件に引っ越してください。費用はこちらで持ちますよ」と入居者に持ちかけて。そんなの許されざる行為だと思うんですけど、実際にはそうして全空になる物件がちょこちょこあります。
――あり得ないほどゲスいですね。他にもありますか?
もう一つは、全空にして更地として売りたいケースです。入居者の少ないボロアパートよりは全空の方がいいので、入居者を出してしまうんです。その後、マンションを解体し土壌の改良を自分でするよりも、そのまま土地値で売ってしまうほうが楽だというパターンですね。いわゆる古屋付きの土地。この2パターンが多いんじゃないですかね。
――なるほど。全空物件はやはりレアだということですね。
だって、故意に追い出したのではないとすれば、普通は全空になる前に売りますよね。一生懸命やっているのに、8部屋のうち3部屋とか4部屋しか埋まらないんだったら、早い段階で手放したくなりますよ。
全空物件は基準の家賃も、ライフラインが正常かもわからない
―ー全空物件って相当難しいものだと思うのですが、具体的にどういったところが大変なのですか?
半分空室というケースと違って、全空は怖いとこがありますよね。その理由は2つです。
例えば一部屋4万円で募集されていて、半分しか人が入っていない場合、現状のままの4万円だと高いかもしれないけど、家賃を下げたり、バリューアップしたりすれば残り半分は入居付けきるなと予想をつけやすいんですよね。
そしてもうひとつ。半分または3分の1でも埋まっていれば、インフラはちゃんとしているということです。雨漏りしまくったり、水道が赤水で全然使えなかったりということはないわけです。でも、全空だとそれが分からないんですよ。長時間放置されていると、当たり前に住むために必要なことができなかったりするので。
いくらで募集すれば埋まるかの基準もないし、インフラもわからない。そこは全空とちょっとでも埋まっているときとの大きな違いです。ですから最初は、全空は狙わないほうがいいですよね。
――では、なぜ寺尾さんは全空物件を買おう思ったのでしょうか?
ボクの場合、建物としてはちゃんとしていたんです。平成築の軽量鉄骨のアパートで、故意に追い出している感じで、直前まで人が住んでいたことがわかりました。だからインフラの面は大丈夫だろうと予想がつきました。
あと、これぐらいの家賃で入居が全部決まれば、これぐらいの利回りが出るだろうなっていうのが普通に計算できたんです。神奈川県西部のアパートだったのですが、よほどのド田舎でなければ、絶対に埋まらないってことはないんです。たとえ、今、4万円で募集していて全空だったとしても、100円だったら埋まりますよね、っていう話です。
ということは、適正家賃は4万円から100円の間のどこかなんですよ。だから、キッチリとリサーチして、家賃以上の価値を提供すればいいわけです。お金をかけなければいけないところもあるので、その全部の費用を考えても、収益的に良いと思ったので購入しました。
――でも、4万円から100円の間のどこが適当かというのを見極めるのは難しいですよね?
賃貸経営の基本は、家賃に見合った価値であるかどうかが大前提となります。または、価値に見合った家賃かどうかです。入居が決まらないのは、基本的には家賃が高いわけですが、だからといって、闇雲に家賃を下げろという意味ではありません。家賃と価値はバランスとして考えなければいけないので、家賃を下げたくなかったら価値をあげましょうよというのが基本的な考え方です。
必ずしも家賃を下げる必要はない。家賃にみあった価値にするためにやるべきこととは?
――では、どうしたら価値を上げることができるのでしょうか?
ここは、すごく大事なポイントです!
賃貸経営が下手な人に、「価値って何ですか?」と聞くと数が上がってこないんですね。思いつく限り言って下さいと言っても、立地とか広さしか出てこない。そして、すごく長く考えて、「築年数ですか?」とかね。
――それって、どうしようもない部分ですよね。
そうなんです。この3つは変えられないものなんですよ。でも、価値に関わることって本当はたくさんあって、その中にはあまりお金を変えられずに変えられることもあれば、お金を必要とすることもあります。例えば、清潔感とか明るさとかもそうですよね。
――マンションが発する雰囲気と言うことですか?
雰囲気もそうだし、物理的な明るさもです。部屋の中の明るさとかね。あと名前。未だに『○○荘』とかが存在しているのは不思議でならないですよ。名前は大家さんの一存で変えられるし、価値を構成する要素です。
清潔感もそう。雑草を抜いて掃除すれば済むとか、そういう価値の上げ方をみんな知らなすぎる。細かいことで言うと、ドアノブは丸くて握るタイプよりもハンドルタイプの方がいいですよね。キッチンや洗面所の蛇口も、水とお湯が分かれているよりシングルレバーの方が価値は高い。畳よりフローリングがいいでしょうし、壁は廉価版のクロスよりはちょっとしたアクセントがあった方がいい。浴室の鏡は昔の銭湯みたいなA4サイズの小さなものより姿見みたいなものがいい。細かいことを言っていくと、めちゃくちゃあるわけです。
ボクは書籍の中で、これらを『価値向上カード』って言っているんですけど、そのカードって選択肢になっているわけです。そのカードが3枚か4枚しかなくて、しかも使えないようなものだったりするとお手上げですよね。
――手持ちのカードの中からその物件にあったものを選んで使えばいいんですね。
そうです。一番簡単に価値を上げるカードって、建て替えるっていうカードになりますけど、相当お金がかかりますよね。でも、それを提案してくるハウスメーカーもあるわけです。価値向上カードが建て替えしかないと、物件は何もしないままどんどん朽ち果てていって、本当に建て替えるしかなくなります。All or nothing みたいな感じですよね。
――そうなると終わりですね。
価値向上カードは、賃貸経営が上手い人ならすごくたくさん持っています。それを見て、自分もどんどん増やしていけるのが価値向上カードの特徴です。ようは、そういうことに興味があるかないか。興味を持てば、どんどん増えていくわけです。
だから根本的には、賃貸経営をするからには、経営者だという気概を持ってやることが大事です。家賃に見合った価値を提供すれば借り手はいるはずですから。
飲食店だって、「1千円のステーキが高いですか?」と聞かれても、それだけでは判断できないですよね。500円でも高いと思うものもあれば、1千円でも安いと感じることもある。中には、1万円でも納得して払うこともあります。家賃だって、一般的に言えば2百万は高いですけど、中には安いって入居する人もいるわけで、価値に見合った家賃にするために、価値向上カードをたくさん持って、それを効率よく使っていくというのが基本的な考え方ですね。
――価値を高めることの重要性がわかりました。
家賃が高いとは、何に対してかと言うと、物件の価値に対してですからね。単純に、駅から遠いとか、古いとか、和室だからというわけじゃないんです。本当は、駅から遠い割には家賃が高い、古い割に家賃が高いとなるわけです。
そうなると、基本的に家賃を下げるか、または家賃を下げたくなければ価値を上げる。それだけのことなんですよ。
あともう一点、募集についてもポイントがあるのですが、それは後編として話したいと思います。
アドバイス
――ありがとうございます。では前編の最後に、これから空き室が多い物件を買おうとしている人にアドバイスをお願いします。
不動産を安く買いたい、利回りが高い物件を買いたいというのは、みんなが思っていることです。でも、安く売られている物件には、何かの理由があるはずです。だって売主さんからすれば、ちょっとでも高く売りたいわけですから、その値段でしか売れない理由があるはずです。
その理由は建築基準を満たしていないとか、古いとか、いろいろな理由があるわけですが、入居率が低いっていうのは変えられることなんです、大家さんが自分で。逆の言い方をすれば、高い利回りの物件を買いたいというときに、空き室が多いというのは結構、有望な物件の可能性があるということです。
それはスペックが悪い場合もあれば、大家さんの経営力がなかったり、ちゃんと募集されてなかったりっていうことも多いので、空室である理由が分かれば勝てると思いますね。
ただし、空いている理由がわからないのであれば埋められません。改善点がわかって、それが改善できることだったときには、そこを狙えばいいんです。ぜひ賃貸経営力を強化して、お得な物件を買えるようしてください。
取材後記
賃貸経営の重要さを繰り返し語ってくれた寺尾さん。家賃と価値の考え方はとてもわかりやすく、空室改善カードを増やさなければならないのだと改めて思いました。
読者のみなさんは、いくつお持ちでしょうか?
たとえ今は少なくても、これから増やしていけるとのことなので、積極的に活動していきたいですね。
そして、募集についてもポイントがあるということで、後編に続きます。