【連載】コロナ禍で急変する賃貸市場。「新しい生活様式」に則った空室対策とは?

  • 2020/6/14
  • 【連載】コロナ禍で急変する賃貸市場。「新しい生活様式」に則った空室対策とは? はコメントを受け付けていません

(株)アートアベニューの伊藤と申します。弊社は首都圏の賃貸物件約6700戸をオーナー様からお預かりし、不動産管理に経営者思考を取り入れた「プロパティ・マネジメント(不動産経営管理)」を行なっている不動産管理会社(PM会社)です。本連載では、PM会社ならではのノウハウ、業界のリアルな裏話などをご紹介していきます。

約1ヶ月半続いた緊急事態宣言が5月25日に全面解除されました。未だ先行きは不透明ですが、新型コロナウイルスの与えた影響と、その後の部屋探しの需要について考えます。


コロナ前 首都圏の賃貸物件市場は好調!

本題に入る前に、まずはコロナショック以前における首都圏の賃貸市況を振り返ってみましょう。

図1は、東日本不動産流通機構が発行している「レインズシステム利用実績報告」の数値を基にしたグラフです。首都圏の賃貸物件在庫の推移をみると、1月-2月の在庫数(平均)は2019年で約301,000件、2020年で約232,000件と、前年に比べて約70,000件弱も減っていることが分かります。ちなみに2018年は約345,000件であり、2年前と比べると110,000件以上の減少です。
(※賃貸物件在庫とは:退去などを理由にレインズへ登録された月末時点の募集物件数)

在庫が減るということは、人の流入に対して住居が不足し始めるということです。事実、2020年2月までは景気拡大局面であり、企業の雇用拡大によって東京への人口流入は増加。賃料を下げるどころか、上げても決まるという“楽な状況”でした。

弊社では、2020年1-2月期に募集した物件のうち、約6割が平均3,000円の賃料アップで成約しています。港区のとある高級マンションに至っては、なんと5万円も賃料を上げて成約。不動産は「一物一価」であるため、地域や時期、希少性などの個別評価によっては大幅な賃料アップが期待できます。この物件は築10数年でありながら、新築時より高く成約するという驚きの事例となりました。

しかしその好調も、コロナウイルスが日本で騒がれ始めるとともに一気に収束を迎えます。

コロナの苦境は3月から。緊急事態宣言下がピーク

部屋探しの反応は、3月に入った頃からじわじわと鈍ってきていました。急転したのは、やはり4月7日の緊急事態宣言の発令です。以降は部屋探しが激減し、当社への反響も減ったばかりか、申込の約60%がキャンセルに。4月は元々キャンセルの多い月ですが、今年は例年の倍の数がキャンセルとなる異常事態となりました。

一方で、申込だけでなく解約についても3割減ったことは、オーナー様や管理会社にとっては僥倖だったでしょう。解約のキャンセル=空室が発生しない、ということですから、申込数減少による影響は小さく済ませることができました。ただし、「仲介手数料」が収入のメインとなる賃貸仲介会社は、申し込み・引っ越しの減少が業績を直撃。3月以降は特に厳しい状況だったようです。

そしてコロナ後、空室対策のポイント

しかしGW明けからは、徐々に客足も回復。弊社では、申込も解約も例年の80%程まで回復しました。一時的に人の動きは鈍化したものの、どんな状況でも住まいは必要である以上、居住系不動産の回復は早そうです。しかしそうなると、気になるのはもっと先、「これから」の賃貸市場、そして入居者ニーズの話です。

5月4日には厚生労働省が「新しい生活様式」を公表しました(図2)。この中で注目したいポイントは「テレワーク」です。幸か不幸か、今回の騒動で「在宅勤務」というテレワークスタイルは急激な広がりを見せました。当社においても手探りながら在宅勤務を取り入れたほどです。

(クリックすると大きな画像を表示)

しかし、国土交通省が調査した「新型コロナウイルス感染症対策の一環として実施されたテレワーク(在宅勤務)の実施状況(R2.3月調査)」によれば、在宅勤務を経験した人のうち約1割が「自宅に仕事に専念できる物理的環境(個室、机・椅子など)がなく仕事に集中できなかった」と回答したとのこと。どうやら、新しい働き方に対して「住まい」というハードが対応できていないようなのです。

在宅ワークの普及次第ではありますが、仕事用の書斎需要は増加していく可能性があります。今後は「書斎スペースを設けた賃貸住宅」の提供なども効果的な空室対策となるかもしれません

加えて、仕事環境の構築に欠かせない「インターネット無料」の需要がますます高まることも考えられます。ただし、仕事でネットを使うとなると、速度や安定性も求められます。比較的安価に導入できるネット無料サービスは通信速度1Gbpsと高速に見えますが、あくまで「1棟全体」であり、複数戸で同時に利用すると通信速度が遅くなるのが難点。今後の在宅勤務需要を見据えるならば、多少高コストでも、部屋ごとに回線をひいて一定の通信速度を確保できるサービスも検討できるでしょう

ちなみに仕事環境と言えば、弊社管理物件では「騒音」に対する苦情の件数が例年の1.6倍にも増加しました。どうやら「子供の声が仕事の邪魔になる」「仕事をしている人の声がうるさい」など、在宅勤務も騒音クレームを増やす原因のひとつとなっているようです。

コロナウイルスをきっかけに、間取りやネット環境だけでなく「遮音性」などに配慮した物件企画も注目されるようになるかもしれません。「自宅での働きやすさ」に着目した空室対策、検討されてみてはいかがでしょうか。

株式会社アートアベニュー
プロパティマネジメント(不動産経営管理)の草分け的存在として業界からも評価される不動産管理・コンサルティング会社。日常の経営管理業務のみならず、オーナーの投資目標に合わせた売買・組替相談、不動産財務分析、建築企画、相続支援等もおこなう。代表の藤澤雅義氏は、日本でのCPM®(米国不動産経営管理士)を認定するIREM JAPANの2003年度会長。http://www.artavenue.co.jp/

関連記事

会員登録・ログインはこちら

最新記事

  1. 限界集落と聞くと、かなり田舎~に限定される話に聞こえますが、実は都会でも、というか、23区内でも限界…
  2. いきなりですが、筆者は関西人です。そして同級生の子どもが、昨年の春、東京に就職しました。 22…
  3. ビルオーナーや一棟マンションのオーナーなどは、持ち物件に防犯カメラを設置したいと考えている方も多いと…
  4. 先日、「不動産投資(大家業)は絶対にすべきではない」と力説する方に出会ってしまいました。不慮の事故み…
  5. 先日、友人と、あるミーティングに参加させられました。テーマは、「資産を増やす」というもの。 た…
ページ上部へ戻る