【連載】閑散期の空室対策「初期費用減額キャンペーン」に隠れたリスクの正体と回避の基本
- 2022/7/25
- 不動産投資
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春の引っ越しシーズンが終わり、現在はいわゆる閑散期。部屋を探す「需要」の減る、大家さんには厳しい季節の到来です。募集中物件が多かったり、新築が乱立したりと、お部屋の「供給」の多い地域では、需要減の問題はいっそう深刻。半年、一年といった空室の長期化も考えられる以上、「強力な空室対策」として「初期費用減額キャンペーン」を検討される方も多いのではないでしょうか。
初期費用減額キャンペーンとは、「フリーレント」や「初期費用一律3万円」など、初期費用を大幅に減額する特典を用意して申込を促進する空室対策のことです。特段の工事も必要なく、お得感から早期の申し込み獲得も期待できるとあって、閑散期に実施する王道の空室対策のひとつとなっています。
しかし、効果の高い施策には必ずリスクがついてまわります。初期費用減額キャンペーンにおいては、「入居者の属性悪化」という弊害を考えておかないと、後になって苦労することにもなりかねません。
初期費用減額キャンペーンに隠れた2つのリスク
申込の敷居を下げるということは、ターゲット層を拡大するということです。それはつまり、通常の募集であれば当てはまらなかったはずの属性の方からも申し込みが入ることを意味します。これによって想定される問題は大きく2つです。
家賃滞納の発生
初期費用の安さに惹かれる方の中には、そもそも通常の初期費用を払う資力のない方がいます。ぎりぎり契約金は払ったものの、引っ越し代や家具の購入でお金を使い果たし、その後の家賃が払えなくなり、短期間で明け渡し訴訟に発展してしまう…、そんなケースも珍しくありません。
当社のデータでは、家賃滞納による明け渡し訴訟の発生率は、通常募集であれば0.25%に留まりますが、初期費用減額キャンペーンを実施した部屋では2.2%となっています。たった2%の差ではありますが、8.8倍の差と見ることもできます。
入居ルール違反や契約違反、マナー違反の発生
期日までに家賃を払うという基本的な約束が守れない方は、入居中のルールやマナーについてもルーズになる傾向があります。例えば、ゴミの分別やゴミ出しの日が守れない、単身物件にもかかわらず複数人で住んで騒音トラブルを起こすといったケースが挙げられますが、他の入居者に迷惑をかけるような事案が発生する点には要注意。マナー違反者の行ないに嫌気がさして、マナーを守って生活していた問題のない入居者が部屋を解約してしまうこともあり得るからです。
滞納保証によるリスク回避
①家賃滞納のリスクは、賃貸保証会社の加入を必須条件にすることである程度は担保されます。しかし、それだけでは不十分な場合があります。ほとんどの保証会社は、保証限度額を定めており、その上限を超えた分の費用は保証されません。また、賃借人がまた、賃借人が第三者へ転貸していたことが発覚した際には、保証会社との契約 が即時終了してしまう場合が多いため、「①家賃滞納+②契約違反」のケースには対処しきれません。
もう1つの方法として、管理会社との管理委託契約で滞納保証を付けるという方法もあります。管理会社との契約内容は、保証会社の契約に比べれば調整がしやすく、また予め広い保証範囲を用意している管理会社もあるため、複数の会社に相談してみるといいでしょう。ちなみに当社では、家賃の滞納や退去時の原状回復費用、明け渡し訴訟時の裁判費用等についても無制限で保証をしており、なかなか保証範囲の広いサービスと自負しております。笑
契約条項や設備によるリスク回避
②ルール違反やマナー違反をする賃借人を見極めるのは非常に困難です。慎重に審査をしても不安が払拭できない場合には、契約書にあらかじめ禁止事項を追加したり、違約金などのペナルティを記載するなどして釘を刺しておくと、マナー違反の抑止に繋がります。
トラブルを発生させないための環境づくりという観点では、物件の巡回清掃の頻度を増やしてきれいな住環境を保つことや、防犯カメラの設置などが有効です。防犯カメラの設置は、実は入居者のマナー改善にも効果があります。常に「見られている」という意識を持たせることで入居者のルールを順守する意識を高められるほか、万一のトラブル発生時にも当事者の特定がしやすく、その後の注意や改善がしやすくなるのです。
リスクを想定した上での経営判断を。
ここまで「初期費用減額キャンペーン」のリスクについてお伝えしてきましたが、しかし同施策が強力な空室対策であることは事実です。入居後のトラブルを想定し、事前に対策を講じれば、キャンペーンの有効活用は決して難しいものではないでしょう。
大切なのは、メリットだけでなくリスクにもきちんと目を向け、十分な対策を講じることです。時には、『リスクを承知で入居させる』ということが必要な場面もあると思いますが、そのリスクが本当に許容できるものなのかどうかを見極め、トラブルを想定した総合的な経営判断をしていくことが望ましいでしょう。
筆者:(株)アートアベニュー内田
弊社は首都圏の賃貸物件約7000戸をオーナー様からお預かりし、不動産管理に経営者思考を取り入れた「プロパティ・マネジメント(不動産経営管理)」を行なっている不動産管理会社(PM会社)です。本連載では、PM会社ならではのノウハウ、業界のリアルな裏話などをご紹介していきます。
株式会社アートアベニュー
プロパティマネジメント(不動産経営管理)の草分け的存在として業界からも評価される不動産管理・コンサルティング会社。日常の経営管理業務のみならず、オーナーの投資目標に合わせた売買・組替相談、不動産財務分析、建築企画、相続支援等もおこなう。代表の藤澤雅義氏は、日本でのCPM®(米国不動産経営管理士)を認定するIREM JAPANの2003年度会長。
http://www.artavenue.co.jp/