【連載】インターネット無料だけでは集客が困難に!?  新トレンド「高速インターネット」に要注目

  • 2022/6/30
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私たちの生活を大きく変えたコロナ禍。その影響は当然に入居者ニーズにも及んでいますが、最近、特に気になるのが「インターネット環境」にまつわるニーズの変化です。ちょうど先日も、次のようなランキングが発表されました。

1位「インターネット無料」
2位「通信速度の速いインターネット環境」

※不動産のプロが選ぶ!「ウィズコロナ時代に人気の条件・設備」ランキング(アットホーム株式会社、2021年12月発表)

注目は、2位に「通信速度の速いインターネット環境」がランクインした点です。どうもコロナ禍以降、入居者は「ネット速度にこだわるようになった」ようなのです。

確かに、弊社管理物件でも “光回線の利用の可否”についての問い合わせが増えていますし、お付き合いのある仲介会社の中には、トラブル防止を目的に「光回線の利用の可否について説明を受けた」という念書をつくる会社も出てきました。入居後に「光回線が使えないじゃないか」とクレームが入るケースが急増したため、そのようなリスク対策を始めたといいます。

また、入居者が「速度へのこだわり」を見せる一方で、もうひとつ気になる変化も出てきています。ランキング1位「インターネット無料」を仲介業者にアピールしても、最近は反応が“いまいち”なことが多いのです。

多くの物件で無料インターネットの導入が進み、希少性が薄れた…というのもあると思いますが、先ほどの「光回線のクレーム」と合わせて考えると、不動産会社のカウンターでこんなやりとりがされているのでは?と想像してしまいます。

「こちらのお部屋、無料でインターネットが使えるんですよ。使い放題です!」
「えー、無料って言ったって、使いものにならない遅い回線が入ってるだけでしょ? 結局じぶんで光回線を契約するんだったら、もっと安い部屋がいいなあ。あ、こっちのお部屋って光回線入れられます?」

コロナによって私たちの生活は一変しました。テレワークの普及や動画配信サービスの利用など、インターネットを活用するライフスタイルも定着しました。しかし、そのような生活はストレスのない高速インターネット環境があってこそ。ネットが無料で使えることも魅力ですが、それ以上に「速さ」に魅力を感じる入居者がここのところ増えてきているのではないでしょうか。

では、「速度にこだわる層」に物件をアピールするにはどうすればいいのか。今回は、「通信速度の速いインターネット環境」を提供する方法を考えます。

 

通信速度を高速化するための方法とは?

結論から言えば、高速インターネット環境を構築する近道は「光回線を敷くこと」です。

NTTのサイトでは、建物・エリアの光回線導入可否を簡単に確認することが可能です。

(NTT提供エリア確認用サイト:https://flets.com/app2/cao/prefselect/index/ )

しかし、このサイトでわかるのは、共用部にある”MDF(通信線が集まっている場所)まで光回線が敷かれているかどうか”であって、お部屋まで光回線が配線されているかまでは分かりません。なぜなら、MDFから各部屋まで光回線が届くか否かは、建物配管の造りに左右されてしまうからです。

配管がない場合は、別途工事を行う必要があります。家庭用光回線が登場したのは2003年頃ですので、それ以前に竣工した建物では工事が必要なケースが多いでしょう。

 

所有者ができる光回線提供方法

次に、高速インターネット環境をどのように提供するかの検討ですが、こちらは2つの候補が考えられます。

・囲回線の無料インターネットを全戸へ導入する
・光回線を利用できる環境のみ用意する

<1>は、「無料インターネット」と「高速回線」の両方を叶える、もっとも入居者に喜ばれるかたちの提供方法といえます。

光回線の敷設にあたっては、通常は各部屋へ光回線を繋ぐ工事費および調査費が必要となりますが、契約前提であれば、これらの費用込みの0円で対応してくれる光回線業者が多いので、初期費用は意外と安くすみます。

しかし、全戸一括契約に加え、ランニングコストが戸あたり月額4,000円~5,000円ですので、固定費が従来の無料インターネットと比較して2倍以上に膨らんでしまうことがネックです。もちろん、「無料高速インターネット」という付加価値は家賃に転嫁することが可能ですが、エリアの相場的に5,000円の賃料アップが難しい地域では赤字となるため、なかなか実施を決断しにくい施策でしょう。

固定費を増やしたくない場合は<2>の選択となりますが、こちらで謳えるのは「光回線導入可」までであり、<1>に比べると訴求効果はどうしても低下します。また、契約をしないため、導入可否の調査費については別途負担する必要がありそうです。

ただ、時間をかければ調査費の節約は可能です。なぜなら、大家さんが動く前に入居者の皆さんが光回線の敷設を検討し、すでに開通させているケースがあるからです。この情報をおさえられれば、現入居者退去後の募集開始時から「△△光回線利用実績あり」「高速インターネット導入可」とアピールすることが可能となります。

情報をおさえるには入居者へのヒアリングが必要ですが、予め契約書の特約に「インターネット回線を導入する場合に借主は工事内容を予め貸主へ説明し承諾を得るものとする」と記載しておけば、工事詳細を自然と聞き出せるうえ、こちらから確認せずとも借主から連絡が入るようになります。

 

現回線の速度向上を目指すならIPv6の検討を

ただ、すでに「インターネット無料」を導入している物件の大家さんにとって、いちばん知りたいのは光回線を導入せずに通信速度を高める方法でしょう。必ず効果が出るという保証はありませんが、そういった理想的な解決方法もないではありません。

詳しい話の前に、まず無料インターネットの回線が「遅い」と言われてしまう原因からお話ししましょう。インターネット無料の物件は、「シェアード型」と呼ばれる方法で導入されていることが一般的です。これは一定の通信容量(例:1gbps)を入居者全員でわけあう(シェアする)方式で、コストが低く運用が容易な代わりに、シェアする人数が増加したり、動画・ズームなどの重たい通信が増えたりすると、各世帯の通信容量が確保できなくなり、利用者側は「遅い」と感じることになります。

弊社でも「シェアード型」の物件を数多く管理していますが、「●時~●時の通信が遅い」という”時間帯”によって速度が遅くなるという問い合わせがほとんどです。つまりその時間帯は、多くの入居者が在宅していてインターネットを利用しているため、各世帯の「シェア」できる容量が足りなくなっているわけですね。

この場合の解決策は、とにかく通信容量を増やすのが一番です。たとえば、1gbpsの回線をもう一つ増設することで改善する可能性があります。(共用部増設工事数万円・月額数千円負担増)

ただ、遅くなってしまう原因にはもうひとつ、「近隣のネット利用者が多いことで通信容量がひっ迫している」というケースがあります。つまり、物件内での通信容量のひっ迫と同じようなことが、もう少し広い「地域」という単位で起こっているわけです。

こちらについては、個人で「通信容量を増やす」というようなことができない以上、改善が難しいところです。しかし、通信方式をIPv4というものからIPv6(正しくはIPoE+IPv4 over IPv6)へ切り替えると、速度が改善される可能性があります(月額数千円負担増※追加工事必要なし)。効率的な通信が可能となるため、地域の回線の混雑に巻き込まれなくなるようです。

ただし、通信速度の低下は、物件内の容量ひっ迫と地域の容量ひっ迫、どちらが原因かは一概にはわかりません。まずはご利用のインターネット業者に相談し、解決策を検討されると良いでしょう。

全国賃貸住宅新聞が発表する「入居者に人気の設備ランキング」においても、2021年のランキングでは「高速インターネット」が初登場で4位にランクインしました。インターネット無料が年を追うごとに定番設備になっていったように「高速インターネット」が定番設備になる日も案外近いかもしれません。トレンドを取り入れることを念頭におきながら、日々、対策を考えることが重要でしょう。

 

筆者:(株)アートアベニュー 伊藤
弊社は首都圏の賃貸物件約7000戸をオーナー様からお預かりし、不動産管理に経営者思考を取り入れた「プロパティ・マネジメント(不動産経営管理)」を行なっている不動産管理会社(PM会社)です。本連載では、PM会社ならではのノウハウ、業界のリアルな裏話などをご紹介していきます。

株式会社アートアベニュー
プロパティマネジメント(不動産経営管理)の草分け的存在として業界からも評価される不動産管理・コンサルティング会社。日常の経営管理業務のみならず、オーナーの投資目標に合わせた売買・組替相談、不動産財務分析、建築企画、相続支援等もおこなう。代表の藤澤雅義氏は、日本でのCPM®(米国不動産経営管理士)を認定するIREM JAPANの2003年度会長。
http://www.artavenue.co.jp/

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