原状回復の「ガイドライン」や「民法改正」について重要点を解説
- 2019/11/1
- 賃貸
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入居時や入居中よりも大きな問題となるのが、退去時の原状回復です。敷金を十分に入れて入居した場合は「返金額」が争点に、今流行の敷金0円で入居した場合は「請求額」が争点になるケースは多くあります。
今回は、退去時の原状回復をメインに担当している現役の営業マンが、トラブルの原因と回避方法について解説します。
1.「原状回復」とは?
原状回復とは、入居時の状態に戻すことではありません。
原状回復では「経年劣化」を考慮し、入居時から退去時の期間で自然にできた
- 傷み
- 汚れ
- 変色
などを除いて算定します。
室内をいくらキレイに使用していても壁クロスは数年たてば日焼けで変色しますので、それら全て張り替えて入居者に請求するのはあまりにも酷です。
少し難しい表現ですが、「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」と定義され、「入居時の状態に戻すのではない」「自然に生活をしてできた損傷や汚れなどは賃借人(入居者)が負担する必要はない」とする最高裁の判決も出ています。
後に説明する「ガイドライン」の効果もあり、原状回復の「原状」についての線引きが行われました。トラブルは減ってきているものの、消費者センターへの相談件数は約1万4000件(2014年度)と、まだまだ多いのが現状です。
2.原状回復と敷金・礼金の関係性
敷金・礼金は、入居時に初期費用として支払うのが一般的です。
地域によって意味合いが少し異なりますが、民法改正後はどれも預け入れ金の部類に属します。
敷金は家賃の1~3ヵ月分が相場であり、退去時の原状回復費用として充当されます。一部地域では、保証金という名称の「敷金と同じ性質を持つもの」があるようです。
原状回復にかかった費用が差し引かれたお金が戻ってきますが、契約の内容によっては返金のない「敷引き特約(敷金償却ともいう)」もあります。家賃滞納があった場合、貸し主(家主)が敷金を滞納分へ先に充当することが可能ですので、入居者は原状回復費用を追加で支払わなければいけません。
一方、礼金は貸し主(家主)に「住まわせて頂いてありがとうございます」というお礼の意味合いで支払うのが一般的です。
通常は原状回復費用に充当されることはありませんが、契約内容によっては礼金を原状回復費用に充当する特約が付加されることもあります。
借地借家法が影響する以前からある古い慣習ですので、今後は礼金という言葉自体がなくなっていくでしょう。
3.「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」とは?
退去時の敷金返還をめぐるトラブルが多かったため、1998年に国土交通省が「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を公表しました。
トラブルが起こったのは、原状回復の意味する「原状」について線引きが曖昧だったためです。どこが「原状」で、どこからどこまでを「回復」するのか、範囲が明確でなければトラブルが起こるのは当然でしょう。
ここで、背景を簡単に説明します。
かつては、「地主=お金持ち=権力者」という古くからの風習・慣習により、借りる側の権利は著しく弱いものでした。
しかし、経済が発展するにつれて賃貸物件の需要が高まったため、それに合わせて借りる側の権利を守るために借地借家法が制定(1991年)されたのです。
借地借家法は特別法ですので、民法と借地借家法がぶつかった際には借地借家法が優先して適用されます。つまり、「民法 < 借地借家法」ということです。
その後、さらに経済の発展や生活の多様化が進み、賃貸物件のトラブルを借地借家法の規定では対応しきれなくなり、「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を国土交通省が公表(1998年)しました。ただ、これは基準を明確にしたにすぎず、ガイドラインは法律ではないために強制力がありません。
そこで、2020年に施行予定の民法改正では、ガイドラインで定めていた基準が法律として明文化されるというわけです。
4.「東京ルール」とは?
トラブルが絶えなかったため、国土交通省が公表した「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」を基に、東京都が「賃貸住宅紛争防止条例」を2004年に施行しました。これが、「東京ルール」と呼ばれる由来です。
ガイドラインと内容は変わらないのですが、トラブルを減らすために周知しようと条例が定められた形です。よって「ガイドライン=東京ルール」として認識している方も多いわけですが、意味合いとしてはそれで正しいといえます。
5.民法改正でなぜ「敷金」が話題に?
民法は、1896年に制定されました。債権関係の規定が改正されるのは、実に約120年ぶりのこと。
細かい見直しはあったものの、約200項目もの大幅な改正は初めてでした。時代の変化とともに、法も変えざるを得ないのかもしれません。
賃貸借契約に関わる改正点は、10項目前後でした。今回は、その中でも特に重要な「敷金」について見ていきましょう。
これまでの民法では、
- 敷金
- 礼金
- 保証金
といった入居時に支払う金銭が法律として明文化されておらず、ガイドラインや東京ルール自体も法的の拘束力を持たないことは先に説明しました。
そこで、2020年4月より、「民法第622条の2」には新しく敷金について明文化されます。
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賃貸人は、敷金(いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。以下この条において同じ。)を受け取っている場合において、次に掲げるときは、賃借人に対し、その受け取った敷金の額から賃貸借に基づいて生じた賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務の額を控除した残額を返還しなければならない。
1 賃貸借が終了し、かつ、賃貸物の返還を受けたとき。
2 賃借人が適法に賃借権を譲り渡したとき。
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要点を解説すると、
- 入居時に払う敷金は預け入れ金なので原則は返金するものです
- 礼金・保証金・その他同じ性質のものであれば、敷金に含みます
ということです。
ただし、敷引き特約や敷金償却特約が否定されるわけではありません。契約そのものは借り主(入居者)と貸し主(家主)の間で自由に取り決めるられますので、お互いが納得していれば敷引き特約や敷金償却特約も有効です。
敷金について契約書に記載がない場合は、民法を適用します。
6.トラブル回避のために契約時に確認すべきこと
敷金については、契約時に決まります。契約前には、敷金や原状回復について必ず確認しましょう。
敷金の金額によって、契約書には「清掃費用○○万円を敷金から差し引く」または「敷金は償却するものとする」などと記載されている場合があります。契約後の変更は、ほぼ不可能です。
また、入居前の傷み・汚れ・変色などについては、借り主(入居者)と貸し主(家主)の契約書両方に写真を添付するのが最も有効です。
まれではありますが、入居中に売買や相続によって賃貸物件の貸し主(家主)が変わることもあります。その場合、貸し主(家主)の意向によっては管理している不動産会社が変わることもあります。その際、入居前の状態に関する証拠がなければ、あなたを守ってくれる材料がなくなってしまうということです。
契約した後に傷や汚れなどを発見した場合は、日付の入った写真を証拠として残しましょう。日付がなければ、入居前のものなのか入居時に気が付いたものなのか、それとも入居後しばらくたってから気付いたものなのかが判断できないため、証拠としては非常に弱くなります。
ここで、入居前の室内状態の写真について「不動産仲介業者の営業マンが撮るのが仕事でしょ?」と思った方もいるのではないでしょうか。
たしかに、借り主(入居者)と貸し主(家主)の間にトラブルを起こさないためにも、契約前の写真撮影は不動産仲介業務の一環として営業マンが行うべきことです。しかし、営業マンが見落としている可能性もあります。
トラブルが大きくなり裁判に発展した場合、裁判をするのは借り主(入居者)と貸し主(家主)であり、借り主(入居者)と不動産仲介業者ではありません。
自分の身は自分で守る必要があるということを、ぜひ理解していただきたいと思います。
7.トラブル回避のために退去時にすべきこと
もし壁クロスを汚してしまったら、キレイな布巾やスポンジを水でぬらし、軽くたたくような感じでこすってみましょう。
この際、布巾やスポンジが汚れていると単に汚れを広げてしまいます。また、こすりすぎるとクロス自体を傷めますので気を付けてください。
柔らかい消しゴムを使い、軽くたたくようにこすのも良い方法です。
キレイに落ちれば請求を回避できるかもしれません。
また、入居中から退去まで、部屋の掃除をしっかりと行いましょう。清掃・手入れを怠った結果として損傷が生じた場合は、借り主(入居者)の負担となる場合があります。
たとえば、
- エアコンフィルターの掃除を怠ったために、過度な負荷がかかり故障した
- 換気扇を掃除せずに使用を続け、モーターに負荷がかかり故障した
- 気密性が高い物件(RC造)と知りながら換気をしなかったために壁をカビで汚損した
- 浴室の定期的な清掃をせず、カビが壁に染み付いてしまった
などですね。
これらの損傷については、退去時に焦って掃除をしても、おそらく手遅れです。賃貸物件は借りものですので、最低でも週に一度くらいは掃除をしましょう。
特に、学生のお子さまに一人暮らしをさせるご両親は気を付けてください。
初めての一人暮らしであれば、換気扇・エアコンフィルター・浴室などの掃除方法を知らない人が多く、ガスコンロ周辺は油でギトギト、浴室はカビだらけ……といった具体に、退去時の清掃費用も通常より高くなることが予想できます。
6.まとめ
原状回復に関する「ガイドライン」や「東京ルール」、「民法改正での敷金の明文化」など、ご理解いただけたでしょうか。不動産仲介業者も、お客さまと揉めたくて請求しているわけではありません。トラブルを防ぐためにも、契約時には契約書をよく確認し、退去時まで保管しておきましょう。