DIY型賃貸契約のメリットって何? 貸主・借主それぞれの視点で解説
国土交通省が古民家などの空き家対策として打ち出した「DIY賃貸」。従来は、貸主側ですべて対応していた賃貸物件の補修などを、借主側で自由に行える賃貸契約のことです。
本記事では、DIY型賃貸契約の特徴と、契約作成のポイントを解説した後、貸主・借主双方の視点から見たメリットとデメリットについても説明します。入居者がなかなか増えず、何か対策をしたいと考えている大家さんは、ぜひチェックしてくださいね。
DIY型賃貸契約の特徴と契約書作成のポイント
築年数の浅い賃貸物件は、入居者も見つかりやすく安定した経営をしやすい傾向があります。しかし、だんだんと時間が経過して建物が老朽化してくると、空室リスクが発生しやすくなり、賃貸経営の先行きが不安になる大家さんも少なくありません。この空き家リスク対策のひとつとなるのがDIY型賃貸です。DIY型賃貸について、まずは基礎知識から説明します。
DIY型賃貸の特徴
DIY型賃貸とは、従来貸主負担だった部屋の修繕費用を、借主が負担する代わりに、借主が自由に改装することを認める賃貸契約のことです。「DIY」となっていますが、改装工事は借主が自分で行うとは限らず、工務店に依頼して工事を進めることもできます。DIY型賃貸は、貸主にとっては修繕費用の節約ができ、借主の方は自分の好きなように改装できてより満足できる住環境を手にできる、というメリットがあります。
従来、賃貸住宅を借りると自分の自由に改装できない点は、借主側のデメリットでした。このデメリットが解消できるという点で、DIY好きな人にとってはうれしい選択肢が増えたことになります。
なぜ、いまDIY型賃貸なのか
日本の総世帯数が2023年をピークに減少し、今後は空き家も増えていくと予想される中、築年数が古くなかなか借り手が見つからなくなるのでは、という予想もなされています。DIY型賃貸は、空き家対策の一環として、借主側がより魅力を感じる物件となるように考えられた賃貸契約です。
古民家をリノベーションしたカフェやゲストハウスなど、古民家を活用した店舗も増え、古民家の魅力も再認識されるようになってきています。古民家を活用するための施策としても、DIY型賃貸は有効な手段なのです。
DLY型賃貸の契約書を作成するポイント
改装する範囲や、退去後にどこまで原状回復するのかなど、借主との間で取り決めなければいけないことはいくつかあります。国土交通省発行のガイドブック「DIY型賃貸借のすすめ」で触れられている、取決め事項のポイントについて見てみましょう。
「DIY型賃貸借のすすめ」 by 国土交通省
所有権:DLY工事部分の所有権を貸主と借主双方で話し合って決める
従来は貸主が全面負担して行っていた修繕を借主がするのですが、基本的には貸主の持ち物に借主が手を加える形になるため、トラブル回避のためにこれだけの取り決めが必要です。特にDIY工事の費用について、どのような扱いにするかは明確にしておきましょう。DIY型賃貸では、原状回復を免除したり家賃を安くしたりする代わりに、借主はDIY工事の費用請求はしない、と定めている場合もあります。
DIY型賃貸の賃貸契約書を作成する場合は、これらのポイントが網羅された内容を定めておかなくてはなりません。国土交通省発行の「DIY型賃貸借に関する契約書式例」がサイトに掲載されているため、このフォーマット(Word文書形式)をダウンロードして活用すると良いでしょう。
DIY型賃貸のメリット・デメリット(貸主視点)
DIY型賃貸にすると、貸主側には主に3つのメリットがあります。
- 原状回復や修繕の費用や手間が不要になる
- 借主は部屋に愛着が出るため長期入居してくれる可能性が高い
- 改装の内容によってはインテリアがグレードアップしている可能性も
また、デメリットも1点ありますので確認しておきましょう。
- デメリットは細かい取り決めが必要な点
これらのメリット・デメリットについて、もう少し詳しく説明します。
原状回復や修繕の費用や手間が不要になる
貸主側でもっとも大きなメリットとして、原状回復や修繕の費用が掛からない点が挙げられます。これらの工事にはお金だけでなく時間もかかりますので、金銭的・時間的な負担から解放されることは、貸主にとって大きな魅力でしょう。
借主は部屋に愛着が出るため長期入居してくれる可能性が高い
借主側は、自分の好きなようにリフォームをすることになるため、単に賃貸物件として借りるより、はるかに愛着が持てるようになります。かなりお金も手間もかかっているだけに、そう簡単に引っ越すことは考えにくいです。長期間にわたり安定して入居してもらえると、家賃収入も安定します。長期入居者の増加は、安定した賃貸経営に貢献してくれるでしょう。
改装の内容によってはインテリアがグレードアップしている可能性も
賃貸契約書でどのような内容を取り決めているかにもよりますが、原状回復せずそのまま受け渡しとなる場合、借主の改装工事の内容によっては、内装や設備など、部屋の中がグレードアップしている可能性もあります。壁面収納などを作りつけて収納力がアップしている、網戸が丈夫なものに変わっているなど、さまざまなケースが考えられます。
デメリットは細かい取り決めが必要な点
DIY型賃貸のデメリットは、細かい取り決めが必要な点です。取り決めをしないまま進めてしまうと、あとあとトラブルのもとになる可能性があるため、手を抜くわけにはいきません。ただし、取り決めのポイントやDIY型賃貸用の賃貸契約書については、国土交通省が公開している資料を使うことで、かなりのトラブル予防になりますので活用しましょう。
DIY型賃貸のメリット・デメリット(借主視点)
次に、借主側視点でのメリットを3つ見てみましょう。
- 自分の好きなように改装でき持ち家感覚で過ごせる
- 改修工事費用を負担する代わり家賃が安くなることもある
- 改修工事部分は原状回復しなくても良いという取り決めも可能
また、借主側のデメリットも1点あります。
- 改修工事費が自己負担
借主にとってのメリット・デメリットも、もう少し詳しく説明します。
自分の好きなように改装でき持ち家感覚で過ごせる
借主にとって、一番大きなメリットは、自分の持ち家のような使いかができるという点です。通常、賃貸物件は自分の好きなように内装を変えることができず、退去の際は原状回復費用が必要な場合もあります。DIY賃貸なら、貸主と合意の上で、好きなように内装が変えられ、まるで持ち家のような感覚で生活を楽しむことができます。
例えば、棚の作り付けや壁面収納などで収納力アップが可能です。壁や天井、床の素材を変えるだけで、ワンランク上のインテリアにすることもできます。
改修工事費用を負担する代わり家賃が安くなることもある
DIY型賃貸で契約する際どのような契約をしているかにもよりますが、改修工事にかかった費用を負担する代わりに、家賃を割り引く、という契約をする貸主もいます。自分にとって使い勝手の良い内装にする上、家賃も安くなる点は、借主にとって一石二鳥だと感じるのではないでしょうか。
改修工事部分は原状回復しなくても良いという取り決めも可能
改修工事部分は原状回復しなくても良い、という取り決めにしてもらうと、退去時の負担が軽くなります。貸主さんによって取り決めが可能かどうかは変わってきますので、しっかり話し合っておきたい部分です。
デメリットは改修工事費の負担
借主にとって大きなデメリットとして、改修工事費は自己負担であることが挙げられます。これも、取り決めによって負担を軽くすることも可能ですが、多くの場合、改修工事費は借主負担です。その代わり、貸主型は原状回復を免除したり、毎月の家賃を安くしたりすることで対応してもらえる場合もあるので、改修工事費の負担は多少軽くなる可能性があります。
まとめ
DIY型賃貸の特徴と、賃貸契約時に取り決めておきたいポイントについて解説しました。DIY型賃貸は、貸主側が修繕せず現状のまま引き渡し、借主が自分の好きなように改修工事をして住む、というタイプの賃貸契約です。
貸主・借主双方のメリット・デメリットも見てきましたが、どちら側もメリットの方が大きく、もっと活用したい契約方法です。特に、築年数が古く空室が目立っている賃貸アパートを経営している大家さんは、契約時の取り決めなどの手間をかけても、経費節減ができるので十分元が取れます。
所有している賃貸アパートの空室対策に頭を悩ませている場合は、DIY型賃貸という選択肢もあるので、検討してみてはいかがでしょうか。